2009年1月29日木曜日

閑話 その十

イラスト8

 山道具続きで、キスリングです。
 閑話その十で、ニッピンでキスリングを買ったと書いたが、結局二十五年使った。ボロボロになったので、新しいキスリングに買い換えた。そこで分かったのは、旧キスリングの綿布の厚さ。新品の倍近く厚い。従って重さも倍近く有った。成る程二十五年もつ筈だ。
 キスリングを使いこなすのは容易では無い。当時はキスリングのパッキングが出来て一人前と認められた。難しいんだ、馴れないとこれが。下手にやるとまん丸っくなって、とてもじゃ無いが、長い間背負って歩くには辛過ぎる。地獄の責め苦一歩手前だ。
 先ず軽い物は下に、重い物は上の手前。硬い物は手前にパッキン代わりの衣類を入れて、背中を保護する。で、最高の出来上がりは薄い長方形、一目で分かる見事さ。経験の無い貴方でも一発で分かります。詰まり、機能美。自然とジェット機が美しくなるのと同じ。美しく出来たキスリングは背負い易いのだ。
 威張る訳じゃ無いんだけど、私のパッキンは見事。え、自慢だって?良いでしょう!キスリングの自慢をする変な奴なんてもう殆ど居ないんだし、おまけに何の害も無いし……。
 憧れのキスリングは片桐の製品だった。手に入らないし高価だが、出来が全く違うそうで、サイドに登山靴が入ると聞いて、おー、何とでかいサイド!此れを読んで懐かしいと思った貴方、我が同士です。(え、嫌だって?)
 キスリングの欠点はパッキンの難しさの他に、紐を扱う事だ。細引きで締め上げ、確り結ぶのが不可欠。冬山では其れが辛い。だって手がかじかんで思う様に動いてくれないんだもん。紐も凍ってたりして。仕舞いには歯まで使って仕上げる。逆に到着した時は、指が動かず歯で紐を解く訳だから、今風のザックに接したら、どんなに愛するキスリングにも別れを、告げざるを得ない。(涙)
 キスリングと涙ながらに別れたのは、十年程前。でも今でも我が家に仕舞って有ります。何と言っても、私の山の原点なもので。
 極たまにキスリングのパーティに会う。と言っても数年前までの話だけど。まず大学のパーティとお決まりだ。あたしゃあ、思わず見とれて見送ってしまうです。多分自分の昔の姿とダブらせているのだろう。
 キスリングのパッキンには力が必要だ。踏みつけて押し込み、踏みつけて容を整えるのは当たり前。そして紐をあちこちに通して(旧品はそうだった、新品はフックが多用され、多少楽になっていた)結ぶ。終わった時には、ザックに血がついているのが常と言う有様。詰まり綿布に擦られた指から出血してるの。
 今風のザックは楽チンで、どんどん放り込んでパチンと留めて、一丁上がり。ただ、悪い癖で予算をケチり一寸と小さ目を購入した為、訳の分からない袋を三つもサイドにくっつけてだらし無く歩いているのが、何ともあたしらしい見っとも無さ、見たら笑えます。

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