2022年10月30日日曜日

閑話番外 その百三十八


  シルバーで働いている図書館ではしょっちゅう蔵書の入れ替えが行われる。廃本に付いているICチップを剥がすのも、我々シルバーの仕事である。面白そうな本はチラ見する。いけない事なのだが、暇な時を狙ってるのでご勘弁してちょーよ。

 著述に全く無関係だった中年女性が、夫が突然山登りを始めたので付いて行く様になり、あちこちの山を登って、アルプスから冬山迄行く様になった顛末を書いたものだ。

 素人の本を出版社が引き受けた訳は一読して分かった。文章が巧い、且つユーモアに溢れている。あちこちに持ち込んでかたっぱから断られたあたしとは大違いだ。出版社のプロは見る目があります。文章が拙くてユーモアに乏しいあたしは、絶海の愚ログがお似合いってこってしょう。

 彼女が槍から北穂の大キレットへ挑戦した。大キレットの写真がないので前補からの写真で失礼。槍から左のピークの北穂へのダウンアップがそれだが、分からないですね(ペコリ)。曰く「飛騨泣きの鎖場も難なく通過」。え、飛騨泣きの鎖場だって?

 昔々々、キスリングを背負って大キレットの核心部騨泣きを通過した時は鎖なんざなかった。方向はあっちだと矢印かマーカーがあるだけで、各自が勝手に小さなホールド・スタンスを探って岩場をトラバースした。依って上にも下にも横に這う人間がいた。そして足元は、ストーーンと目が回る程に落ちているのだ。騨泣きの名前通りの難所だった。偉く怖かったです。

 鎖があれば安心である。ルートをどう取ろうかと迷う事もない。あたしだって”難なく通過”であろう。飛騨泣きではなく飛騨巻きだ、世の中変わったのですね。

 とか大口叩いているが、決して行く事はない。もう穂高とはお別れしたのだから。体力が追い付かないのは百も承知でい、文句あっか! と強がるのさえ馬鹿らしい。

 あと残ってるのは南アの甲斐駒、それでアルプス打ち止めだ。ん、塩見にももう一度行って見るか。夢だけは見続けますかねw

2022年10月27日木曜日

休題 その四百四十七


  映画「47 ~世界を変えた男~」ですよ。九年前の作品で大当たりをしたと言うが、全く知らなかった。野球映画なので興味が湧かなかったのだ。

 黒人初のメジャーリーグ選手になったジャッキー・ロビンソンの伝記作品だ。ブルックリン・ドジャースの選手となって、チームを優勝へと導く。ジャッキーを周囲の猛反対を押し切って採用したゼネラルマネージャーをハリソン・フォードが演じている。如何にも老けたが、絶妙な味を出している。流石だ。

 42とはジャッキーの背番号。打つは盗塁するはで、イチロー選手を思わせる活躍をして野球の殿堂入りを果たす。偉く優秀な選手だった訳だ。

 勿論、相手球団からも野球フアンからも記者達からも、チームメイトからも嫌がられるスタートだった。採用時にハリソン・フォードが「やり返さない勇気を持てるか、右の頬を打たれたら左の頬を出せるか、キリストの教えの様に」と聞き、ジャッキーはできると答える。でも現実は甘くはないですなあ。相手チームの監督に悪罵の猛撃を受けて心が折れかかる。あれは無理もない。ニガーニガーニガー、とっとと帰れ、お前のいる場所じゃない、と叫び続けられる。

 悪罵だけなら未だしも、故意の死球、スパイクでの踏みつけなぞ、実害も受ける。それでも頑張って、人々やチームメイトの信頼を勝ち取って行く話。

 当然ベタになるが、自然と主人公に感情移入させられる。当時(戦後間もなく)の人種差別は凄まじいものだと驚く。

 現在、アメリカ、カナダのマイナーリーグ、独立リーグ、アマチュア野球、メジャーリーグの全てで背番号42は永久欠番になっているのだ。このエピソードには救われる。それだけファーストマンの苦労と功績は大きかったと頷ける映画でした。

2022年10月24日月曜日

休題 その四百四十六

 

 妻と小田急に乗っていると車内アナウンスが聞こえた。「ネクストストップ イズ エビナ。ライトサイドドアー オープン」あたしは妻と顔を見合わせた。こりゃひどい、カタカナをその儘読んでるんじゃないか。外国人には通じないな。と、二人で喜んだ。

 以前は、英語放送は録音した女性の声を流していた。小田急は何をトチ狂ったか車掌にやらせる事にしたらしい。国際線に応募する気ではなかったろうから、英語が不得意な車掌がいても極当然な話で、業務命令とあらば致し方なしとカタカナ読みになったのだろう。それを喜んでいた我々夫婦も人が悪い。その後に乗った時の車掌は結構流暢で、これなら合格だなぞと偉そうにのたもうのだった。

 先日、弘法山へ行く為急行小田原行にのった。え、又弘法山! そうなんですよねえ、もう蛭も出ないから他所へ行けば良いのにさあ。ま、その話は置いといて、メキシコ系らしい男性が「小田急相模原?」と三十代男性に尋ねている。男性がOKと答えたのであたしは席を立って「ドントストップ ネクストチェンジチェンジ」と言って席に戻った。

 何じゃこれは、あの車掌を笑う資格なぞ微塵もない。モロにカタカナじゃないか。尤もあたしは元々英語は大の苦手、これだけ言えただけでも上等って水準なのだ、えっへん。

 メキシコ系と男性は何か話している。これで無事終了かと思ったら、相模大野に着いたらメキシコ系が目の前の座席に座った。男性は降車したらしい。思わず立ち上がり「ディスイズエキスプレス ドントストップ チェンジ!」と言うと慌てて下車、扉が閉まって発車である。

 彼は「ネクスト」と言ってたから次だと教わったのだろう。だが急行なので停まらない。教えた男性は小田急を良く知らんのだろう。結果無責任な教え方になった。それは良いので、あたしも見事なカタカナ英語だったって下らない話です。