2024年4月25日木曜日

休題 その五百十九


  「ロシア敗れたり」、著者鈴木荘一氏、毎日ワンズ出版と言う本を読んだ。副題が「日本を呪縛する「坂の上の雲」という過ち」なので興味を持ったのだ。

 今迄も何回かこの愚ログで日露戦争を取り上げて乃木大将の評価が不適切だと訴えて来たが、その元凶に切り込む本だった。

 著者曰く「日露戦争の真相を知ることを阻害しているのが「坂の上の雲」なのである。史実を大きくねじ曲げてしまう手法が大胆に取り入れられ、許容限度を大きく超えたウソか数多く埋め込まれている」と容赦ない。

 奥第二軍による緒戦の南山戦を見よう。「名古屋第三師団が突撃の為に立ち上がると、たちまちロシア軍の機関銃に薙ぎ倒された。日本兵は機関銃を知らなかった。火器についての認識が、先天的ににぶい日本陸軍の体質が、ここにも露呈している」とあるが、奥第二軍はロシア軍の十挺に対して、四十八挺の機関銃を持っていた。掩蓋に守られた機関銃が有利だったのであって、日本兵は機関銃を知らなかった、の既述は誤りである、と著者は指摘する。

 緒戦から鈴木氏は厳しく検証する。南山攻略を「結局は二千人という死傷者を出しただけであった」と司馬氏は書くが、南山の攻略により、補給基地である大連港を確保し、ロシア軍を遼陽と旅順に分断して作戦目的を達成した、その事については固く口を閉ざす、と。

 司馬氏がプロイセンから招致したメッケル少佐を「日露戦争の作戦上の勝利は、メッケル戦術学の勝利である、とさえいわれたほどだった」と礼賛しているが、彼の功績は鎮台を師団に改変し機動性を持たせた事のみで、ドイツ流の理論兵学を誇りわがまま勝手をしたメッケル流の風潮が陸軍大学に導入されてから、陸大出身の将帥は劣化した。白を黒と言いくるめる議論達者を造る場になった、とは仙台陸軍幼年学校史からの引用だ。(続)

2024年4月22日月曜日

休題 その五百十八


  電気自動車(以下EVと表記)普及の伸び率が鈍化した。各国が補助金を打ち切った事が大きな原因だろう。が、そればかりとは言えないと思っている。使い勝手が悪すぎるのも原因だろう。常に充電を意識して走るのは偉いストレスだ。その上充電渋滞もある。

 EVに飛びついたのは米国、欧州、シナ。地球環境に良いとの触れ込みだが、そんなこたあないのは各国御承知の事だろう。シナの発電量の70%は石炭である。日本の石炭発電はCo2排出を抑えた優れものだが、シナのそれはCo2排出し放題の旧式で「石炭を焚いてEV走らせている」と揶揄される状態だ。地球環境云々を言うなら世界の32%Co2排出量を何とかしてから言って欲しい。

 EVについては既述だが、製作から廃棄に至る迄を見るとガソリン車よりCo2を出す。長く使えばエコになるが、長持ちしないのがバッテリーだ。従ってガソリン車より寿命が短い。そして重いのでタイヤやアスファルトの粉塵を撒き散らす。何と地球環境に優しいのだ!

 太陽電池にも同じ事が言えるが、地球環境を言い立てて新しい動きが起きて儲かるのは誰か、と見れば大体分かる。シナが儲かる仕組みに見えるのは、あたしの間違いかな?

 欧米も儲けようとしたのだろうが、国家戦略として取り組むシナには敵わなかったと言う事だ。今になってシナ製EVへの関税引き上げを言い出した。地球環境ではなく経済なのけえ? まあ、そう言う事だと思っている。

 これも既述だが、地球学者や物理学者はCo2は地球環境とは無関係だとの発言が続いている。確かに地球の温度が上がるとCo2は増加するが、順序が逆で温度が上がってCo2が増える。Co2が増えて温度が上がるのではない。温度が上がると海水中のCo2が排出されるのだ。

 何故かそれら専門家の意見は取り上げられない。国連機関もマスコミも、環境活動屋に牛耳られているからと、愚考します。

2024年4月19日金曜日

休題 その五百十七


  「怪物に出会った日」は前章で終わりにするつもりだった。森合正範氏が五年も懸けて内外の選手にインタビューした本の、ほんの一部を切り取ってブログに載せるんではあんまりだ、と思ったです。せめて森合氏の言いたかった事、多分後書きに凝縮されているのでその一部でも紹介するのが筋でしょう。

 帯封に森川ジョージ氏(初めの一歩の作者)が「井上尚弥と闘うということはかくも大変なことなのか」と書いている。この本を的確に表現しています。

 さて、エピローグと名付けられた後書き。”ボクシングを変えた男”の小見出しで始まる。ドコモがスポンサーに付いて従来の何倍ものファイトマネーを相手に提示できる様になった。相手にとっては勝っても負けても闘う価値がある。そして、尚弥と闘えば世界の注目を集める。日本ではTV放映はなくなり、ネット配信になった。視聴方法も変えた。

 取材は驚きの連続だったと言う。対戦相手は時間を気にせず、ずっと井上戦の話をしてくれる。更に驚いたのは総ての選手が試合の詳細、その時の感情を克明に覚えていることだ、と書く。佐野友樹から尚弥がフルトンに勝った時にメッセージが来たので電話して、何故尚弥と闘ったボクサーははっきりと試合を記憶しているのか聞いた。佐野は「命懸けで闘ったからじゃないですか。百試合近くやってますが、正直覚えていない試合の方が多いです。井上君は特別で、一瞬一瞬が命懸けになる、だから確り覚えている」。佐野は言葉を続け「井上君の試合を見るたび、こんな偉大な選手と試合をしたんだなと思います。ボクサー冥利に尽きます」。敗者は勝者に夢を託し、勝者は語らず歯医者の人生を背負って闘う。それが本物のチャンピオンなのだろう、と森合氏。

 最後に歌う様に森合氏は書く。井上尚弥と闘った彼等は敗者なのだろうか。皆が人生の大きな勲章を手に入れて次に進む糧を手に入れた。

 森谷さん、ご苦労様でした。良い本を有難うございます。