2017年8月30日水曜日

閑話番外 その九十八




 前の閑話で一ノ沢登りの顛末を書いた。里湯に入って帰った訳だが、夏ならではの楽しみが有った。
 トコロテンが季節商品として有るのだ。おお、トコロテン! 山帰りの男達にはとてもとても魅力が有るのだ。ん、女性にも魅力が有るかも知れんですなあ。
 酢っぱいが良いのだろうか、喉越しが良いのだろうか、冷たいのが良いのだろうか、多分、その全てが良いのだろう。
 里湯の食堂なんざ一切料理は造らないので、スーパーで売ってる物を入れ物に入れて出すだけだ。それで充分こっちは喜ぶのだから、登山者なんざチョロイもんです。
 話は急に変わるけど、あたしは右足一ヶ所蛭に喰われていた。蛭なんかに構ってられない状態だった。ザラザラ登りに必死こいてたもんでね。
 左足は二十九ヶ所がダニに喰われていた。軍足に沿って帯状になっていたので、ダニが葉の裏にでも集団になっていた所を、左足で擦ったのだと思われる。
 随分前に手沢を詰めた時、Yが腕にごっそりと小さいダニを付けて「ダニが、ダニが」と呟き乍らそぎ落とした事が有った。あの時は腕だから見つけたが、足だったから気付かなかったと言う事だ。それに、ダニどころじゃない状況だったもんでね。
 Yは首筋と背中、三ヶ所をアブに喰われていた。彼はTシャツだったので喰い易かったのだろう。一週間は痒みを楽しめたそうだ。アブなので妥当な処だ。
うっかり掻くと猛烈に痒くなるあれだ。普通アブに喰われると痛みでそれと分かるのだが、何せ喰われても気付かない場所だったもので(くどい?)。
 夏の楽しみと付物の話、下らなくて失礼。え、この具ログ自体が下らないって? ご尤も!

2017年8月27日日曜日

休題 その百九十四




 家で風呂に入る時も、近所の立ち寄り湯へ行く時も、山帰りの温泉でも、タオルは厚いフカフカな物よりも、薄い奴が使い良い。嵩張らずに乾きが早く、何より体を洗い易い。
 如何にもどうでも良い話ですなあ。でも此れは間違いの無い実感なので、下らないのは承知で書くとしよう。
 従って、売ってるのや、貰い物の上等タオルはダメ。全くとことんダメ! お奨めは温泉旅館のフェイスタオルなのだ。
 妻とは年に五、六回は安い宿を探して温泉旅行へ出掛ける。此れはラベル「貧乏旅行」に書いた通りだ。
 其の時に、宿の名前入りのフェイスタオルを貰って来て、便利に使わさせて貰っている。一件だけ厚いちゃんとしたフェイスタオルの宿があって、持ち出し不可だった。フン、そんなもんいらねえよ!
 そんな塩梅なので、家では兎も角、日帰り温泉や山帰りではバスタオルは無い。まあ、当然な話ですなあ。
 どっちにせよたっぷり温まっているので、汗はポタポタと中々退かない。面倒じゃい、とその侭服を着るのがあたしの流儀なのだ。
 キタネー! とお思いだろうが、どうせ服だって汗びっしょりなのだから、良いのだ。脱ぐ時だって体にへばり付いているのを引っ剥がすのに大苦労するんだから。
 前開きのシャツの時は良いが、ポロシャツの時は引っ張って大騒ぎ(勿論無言で)して脱ぐのだ。何せべっとりな汗で体にへばり付いているもんだで、そりゃ大変。ハーハー言う始末。そして又、汗で重くなっているポロシャツを着こむ訳だ。
 汗は暫くは流れるが、何、タオルでさり気無く拭き取れば良いのだ。薄いタオルは目立たないから便利なのだ。
 本当にどうでも良い上に汚い話でした。失礼!

2017年8月24日木曜日

閑話 その二百三十八




 ふと目覚めると二十時一寸と過ぎ。Yも丁度起きて何か食べようとしている。では、夜の宴会の始まり始まり。パチパチパチ
 先ずは小用の為表に出る。パンツと網シャツ姿で雨に当たってたら震えが来た。テントに入ると暖かい、優れものである。
 雨音を背景にひとしきり飲む。結構な贅沢なのですぞ。一度やったら止められないって。雨音は無くても良いが、有った方がより良い。山の中だなあ、って感が深まるのだ。
 お開きとなると、Yはあっと言う間に寝付く。こっちは中々寝付けない。Yは登山者として最高の資質を持ってるのだ。ただ、汗を異様にかくのが欠点ではあるけど。
 朝六時過ぎにほぼ同時に目覚めた。幸い雨は上がっている。うん、思いの外に行いが良い二人なのだろう。え、違うって?
 ゆっくりしてからテントを畳み出発。もう早い登山者が登って来る。若者ばかりだ。こっちは大倉へ下るだけだが気楽だ。とは言え、昨日の筋肉酷使の影響で、Yの下る足がおぼつかない。テント場へ下るのに横歩きになったのだから無理からぬ処であろう。
 大倉に着いたらバスが待っていて、飛び乗る。渋沢に着くと直ぐに電車が来た。ノータイム運動ですなあ。
 里湯でさっぱりとしたのは言うだけヤボだろう。Yは下着から靴下迄、全て着替えてすっかり綺麗な姿になった。あたしはドブ泥姿だが、町田は近いので構わない。Yは新宿を通って品川へ帰るのだから、汚い侭ではまずい事此の上無しなのだ。
 里湯から駅へ向かっていると「もう筋肉痛が出始めた」なぞと言う。温泉に入ったので身体が山の終了を察知したのだ。驚く程身体は状況を認識している。ヤバイ所では絶対につったりしない。安全になるとつるのだ。
 小さな小さな一ノ沢登りは、かくして今年も無事に終了したのでした。

2017年8月20日日曜日

閑話 その二百三十七




 さて、ドロドロの汚れ姿で大倉尾根に立った我々。やって来る登山者は「何事?」と訝しかっただろう。
 此処迄来ればあと僅かでシークレット幕営地だ。見慣れた傾斜を下ると其処だ。尤も、Yは筋肉が疲れ切っていて其の下りが下れず、横歩きで下ったと、テント内で聞いた。よーっく分かる。筋肉を酷使した訳だ。
 心配していた纏わるブヨも殆ど無くテントを張り、中に入ろうとするとYが新兵器をご披露してくれた。虫除けスプレーだが、霧の塊となって漂う。テントの入口に吹いて、其の間に入っちまうのだ。偉く有効だ。
 乾杯、とやってるうちに雨が降り出した。グッドなタイミングである。とYが「イテテテ」と始めた。つったのだ。一ヶ所が収まると、又次が始まる。辛いものなのですぞ。
 一寸と体を動かしたらあたしも「イテテテ」と来た。其れからは交代で痛がると言うお粗末。いやはや何とも、である。
 此の日の酒、焼酎は「晴耕雨読」。次女が成城石井で見つけたと言うものだが、上品で味がある。優れものだ。ウイスキーはYの持って来たトリス。下品で懐かしい味だ。
 足をつり乍らもチビチビとやるのだ。やれ上品だ、下品だと騒ぐ合間に「イテテテ」である。罪が無いってえば罪が無い話ですなあ。
 小田原で買った潰れ梅(お値打ちの梅干し、大きいのだ)を二人で食べ、味噌汁を飲んだらやっと「イテテテ」騒ぎは収まった。塩分とミネラルの補給が出来たってこった。何せ二人とも、汗でびっしょりになったんでね。
 例に依って十八時過ぎに一旦眠る。Yは何時もの様に「眠れるかなあ」なぞと言っていたが、其の言葉が終わった時には寝付いていた。何と幸せな奴!
 あたしは中々寝付けない。雨音は一段と激しさを増して来た。此のテントはフライを交換したので、びくともしないのだ。続きます。