普段は植林を、やれ死の世界だの土を再生産しないだの美しく無いだの山が崩れるだの生き物が住めないだのと罵って居るが、此の時ばかりは植林様々なのは、我乍ら勝手な奴で有る。(私自身としては許容して居る。え、其れが勝手だって?)
嗅ぎ回って取っ付いた様な斜面を、何の因果か下る事になっちまう事も有る。そうなりゃあビクビクと下る。内緒だが、必死だ。特にSやNには知られたく無い。あ、Iにもだ。ま、絶海の孤島で心配するのが変なんだけど。
登りは下を見ないで済むが、下りは下を見ないと下れない。するととても怖い。足元は滅茶苦茶悪い上に、手掛かりもろくに無いのだから、臆病者の私は血相を変えて下る。へっへっへ、恥ずかしいですなあ。
此処で又植林帯の出番だ。植林へ飛び込めば危険は無い。おまけに植林道で下りられる事が保証されるのだ、万歳!泣く程嬉しい。
で、私のセオリーに従って植林を降りた。Yと一緒に、冬だった。うーん、可哀そうなYよ。何でそんな時に一緒に居たんだ?
薄っすらと雪を置いた土はガチガチに凍って、靴が引っ掛かからず、コロコロ滑るだけなのだ。スケートリンクを思いっきり傾けたに近い。更に良い事には軽アイゼンも持って行かなかったので、頼るは靴のみだが頼れない。其の上傾斜は相当大きい。やったね、やけに嬉しい状況じゃんかさあ!
思い出せば、行く前にYは私に聞いた。
Y「アイゼンは必要かな?」
私「いらないよ」
こうなりゃYも単なる被害者とは思えない。もうとっくに分かって居る筈だ。私がどんなに好い加減な奴かを、だ。自分の身は自分で守るのが基本なのだよ。
凄く傾けたスケートリングの時に戻る。我々は木に掴まって次の木を決め、其の木へ落ちる様に行って抱き着く。其れを繰り返して下ったが、冬には軽アイゼン、と思い知ったお馬鹿な私。何度思い知れば良いのだろう。
下れず困る時は、本当に困る。春の清水峠から謙信尾根を下った。二昔前だ。川原を見下ろす所に着いたが、降り口が不明なのだ。何せ雪道の事、ちゃんとルートを辿って来れた訳では無いので、多分違う地点に立ったのだろう。現に降りられないし。
ウロウロ下降点を探すが、無い。10m程のギャップが、行く手を阻む。どんなに探しても他には無い。覚悟を決めた。此処を降りるしか無い。こうなりゃ、此処を降りてやろうじゃないか。
70度位の土の斜面だったが、垂直に見える。臆病者の私だからだとは言い切れない。貴方が見ても垂直に見える筈だ。70度とはそう言う傾斜なのだ。救いは真ん中近くに立ち木が有る事だ。取りあえずあそこ迄行こう、行くしか無い!
どうにか滑りつつ立ち木には抱き着いた。やったー。でも、後は何も無い。土の垂直に見える崖。
(又もや好事家は行く その四へ続く)