2023年1月29日日曜日

休題 その四百六十三

 


 諌山創氏がアングレーム国際漫画祭で特別賞を受賞したとヤフーニュースにあった。欧州最大規模の漫画の祭典だそうだ。諌山氏とは「進撃の巨人」の作者である。写真があったが、そこらのあんちゃんって感じだが脳内はそこらのあんちゃんなんかじゃない。「進撃の巨人」は世界でも人気だと聞いてはいたが、それが実証された訳だ。

 世界的テーマが込められている作品だ。ユミルの民と呼ばれる一族が巨人化する能力を持つのだが、彼等の大陸での扱われ方はユダヤ人のそれを想起させられる。

 有り得ない設定だが、謎に満ちた展開でぐいぐい引っ張られる。謎は謎の儘読者は翻弄される。その謎は作者だけが知っていて、少しずつ明かされて行く。それも単なる謎解きではなく、話の進行に従って自ずから解き明かされて行く。

 発想が天才だ。突拍子もない話が世界の現実にリンクして行く。友情も陰謀も裏切りも融和も虐殺も何でもあり。ユミルの民が滅ぼされるか抵抗するか、大きな課題を突きつけられる読者(或いはアニメを見る者)にはやけに重い作品だ。見るには結構なエネルギーを必要とされる。

 あたしはアニメなので未だ完結していない。漫画本は一昨年の四月に完結した。単行本は全三十四巻で去年の九月で一億一千万部が世界で売れた。今ではもっと増えてる事だろう。

 前に見てると疲れると書いたが、そう言う作品なのだ。何かと重いのだ。これは漫画の古典になって行くだろう。主題が突拍子もないのに、決して古びる事がない普遍的要素を持っているから。

 マンガと言う言葉は世界で通用するらしいが、確かに群を抜いた存在になっている。アメコミなぞとはレベルが違い過ぎる。日本の漫画とアニメは間違いなく世界最高でしょう。そのベースは日本の文化だと思ってます。

2023年1月26日木曜日

休題 その四百六十二


  今評判の映画「すずめの戸締り」は新海誠監督作品なので「絵が嫌いなの」と妻は言うから、一人で観て来ました。

 「アバター」がトップになれないのは日本のアニメの水準が高過ぎるからと誰かが言ってたが、その通りだと実感させられた。”すず”は主人公の女の子の名前で”鈴芽”と書く。鳥の雀じゃないですよw

 3,11東北大震災が主要モチーフになっているので賛否両論があるが、あたしは全く問題ではなかった。3,11の被害者なら分からないが、辛い記憶とも折り合うと言うメッセージなので、大丈夫なのでは。あたしは相変わらず当事者でもないのに勝手を言ってますなあ。

 後ろ戸と呼ばれる扉から災害(この場合は地震)が巨大なミミズの様な姿で飛び出して来るのを留めて戸に鍵を掛ける役目を持つ青年(閉じ師と呼ぶ)、宗像(むなかた)君と出会って地震を停める為に飛び回るって話。

 何でそんな騒ぎになるのか。すずめ嬢自身3,11で両親を亡くして叔母に育てられた。その自分の辛い過去に自ら封印を無意識にしている。その幼い時に後ろ戸を越えて来た未来の自分に会っているのだ。その時重要な道具(?)となる、母手作りの椅子を渡される。新海監督お得意の時間逆行(或いは先行)である。これをやると無限ループに陥らざるを得ないのだが、今は野暮を言うまい。

 新海監督はベタでなければ大受けはない、と妥協したと前に書いたが、立派にベタを貫いていて効果を上げている。ベタベタにならない範囲を心得ているのが宜しい。

 ん、ネタバレやっちまったかな。それでも構わないのだ。筋が分かっていても問題ないのがこの作品だ。荒唐無稽な癖に何か心に響いて来て、何となく泣かされてしまった。新海作品には独特の魅力があるのだろう。

 未だ絶賛上映中、宜しければ御覧になる事をお勧めします。

2023年1月23日月曜日

閑話 その三百九十四


  人を食う山、東の谷川岳西の丹沢と言われていた。あたしの若い頃なので二十年程前かなあ。冗談です、半世紀前の事、遭難話なのに不謹慎で済みません(ペコリ)。

 谷川岳はギネス認定も受けている世界一遭難死者の多い山である。調査を始めた1931年から2012年迄の遭難死者805名である。凄い数だが、殆どが一ノ倉沢、マチガ沢等の岩壁で起きている事故だろう。

 西の丹沢はカウントされない死者が多いので、東の谷川岳と並び称されていた訳だ。こちらは沢登りでの事故が中心だが、表丹沢だと里が近いので仲間が担ぎ下ろし、帰宅してから亡くなっても遭難死に数えないのだ。これについては前に書いたと思う。

 谷川岳の岩場は剣岳、穂高と並んで三大岩場と称されているが、他の二つはそんなに多くの死者を出していない。これは谷川岳が首都圏に近いからなのだ。夜行日帰りで岩登りができるから、日曜しか休みのなかった時代に、冒険好きの若者が押し掛けた。その結果の悲しい記録である。

 谷川岳は上越国境線だ。従って天候の変化に極めて敏感である。太平洋側が悪ければ谷川岳も悪いし、日本海側が悪ければ谷川岳も悪い。稜線を行く人も天気の急変に見舞われて随分事故を起こした。為に白髪門から仙ノ倉迄幾つも避難小屋が造られた。積雪期には雪に埋もれてしまうのだが。

 あたしも秋に天気急変に会って、仙ノ倉通過は強風で半分這う様だった。砂が飛んで来て顔に当たるので痛い事痛い事、目も開けられなかった。思えば無雪期に谷川連峰に入ったのは、あの一回のみでした。稜線の草が色付いて鮮やかだったのを覚えていますなあ。

 最近は装備が一新したので、岩壁でも稜線でも事故は激減した。昔の装備は本当に貧弱だったのだ。装備の変化は登山者も変化させるのは当然の流れ。山を怖がらない登山者が主流になった。良い事なんだろうが、あたしが様な古い人間には「大丈夫けえ」と不安になるのです。歳ですなあ。