2019年9月29日日曜日

山の報告です その九十四



 仙丈岳へ行こうと決めた。北沢峠でキャンプだから、テントを担いでの歩行は殆ど無いに等しい。若者なら夜行で発って日帰りで帰京だろう。こちとら爺さんだから、一日かけて列車とバスで峠へ入り、一日かけて帰京する。大名旅行なのです。
 天気が安定しない。台風は来るは雨は続くはで、やっと九月十八日(水)出発と決めたのは前日だった。パッキンし、最後にSからのテントを入れるとリュックは一杯になった。フライは外したのに、ゴアは重くてかさばる。
 九時過ぎに家を出る。ふっふっふ、大名ごたある。唯、空は今にも降り出そうだ。JR町田駅で途惑った。梓の自由席が買えないのだ。結局緑の窓口に並んだ。梓は全席指定になったとの事、ちっとも知らなんだよお。
 甲府に着くと改札内に蕎麦屋ができていた。前は改札外左側だった。勿論、とっくに“あじさい“ではなくなっている。入って見ると生そばを茹でてて旨い! 駅蕎麦もこの水準になったですなあ。味災なんざに出番はないね。
 広河原へのバスで雨が降り出した。まあしょうがない、予定通りなんだから。広河原で四十分程待って北沢峠行バスで峠に到着。冬は峠迄一日がかりで歩くのだから、その楽さに驚くやら感動するやら。
 バスを降りた九人のうちテント場へ向かったのはあたしともう一人のみ。あとは皆峠の小屋へ入って行った。十五分程でテント場。十数張能りのテントがあった。小雨っぽいので数が少ない。一番小屋に近い所が空いていたので其処にする。トイレも近いって事です。
 Sからのテントを張ると、粉が落ちている。縫い目に張ったテープが劣化して粉になっている様だ。どっちにせよ長くはもたないな。
 張り終えたのが十五時半、さっさと粗末な食事を終えて、焼酎を水で割ってガブリと飲み、テントの若者達の声を聞き乍ら寝てしまう。爺さんは寝ちゃえば良いのさ。(続)

2019年9月27日金曜日

夢で逢いましょう その五



 シェラフの保温力が増す事。おいおい、夢もクソ(失礼)もなくて、買い替えれば済む話じゃないのけえ?
 それが冬も使えるシェラフは値段が張るのだ。半端ではない。今使ってる“天山”(テンシャン)は三十五年前に買ったのだが、営業マンが見本に持っていた物を安く売ってくれたので買えたのだ。詰まり、横流し品って事です。定価でなんて絶対に買えないのだ、エッヘン(又涙)。
 ダウンも劣化する。春山でさえ寒く感じる様になって来た。多分(いや、絶対)もう替え時なのだろう。何せ三十五年間使ってるんだから。
 でもですよ、思い切り張り込んで新品のシェラフを購入したって、冬山で幕営なんてできるのけえ? もう無いよなあ、良くて小屋泊まりだろう。春山だってあと何回行けるのかなあ。十回は無理だべさ。
 そう考えると新品を、とは思えない。少々の寒さは耐え忍んで、古いシェラフで夢でも見ましょう。
 では本当の夢。三十代、四十代に戻って、キスリングを背に、思うが侭に山を歩く事。ヨタヨタせずにスタスタと歩く事。荷物が苦で無く、何でも無い事。
 結局は初っ端に戻りましたなあ(又々涙)。当時は、重荷を背負って平気で歩く事が普通としか思えず、人とは追い抜くものだとさえ思って居たのだ。知らなかったのだ、今日の日が来る事を。人とは自分を追い抜いていくものだ、と言う日の事を。
 夢、なんて高級な話では無かったですなあ。昔は楽だったから戻りたい、と言ってるだけで有る。何と後ろ向きな、と呆れます。
でも、昔は昔、今は今。今の自分が本当の自分だ。どれ、本当の自分と気長に付き合うと致しましょう。 仕方無いとはこの事。 (この章終わり)

2019年9月23日月曜日

夢で逢いましょう その四



 仲間と山小屋を持つ。場所は、南北中央アルプス、八ヶ岳、奥秩父、丹沢なら、何処でも宜しい。それも麓から三時間以内の場所が理想だ、余り遠いと辛いから。いや、二時間以内が良いかな、いや、一時間以内が宜しかろう。年だもんだでよお。
 此れは楽しそうだ。掛かる費用や手続きの事は置いておこう。何たって無責任な夢なんだから。山小屋をベースとして、付近の山を歩くのだ。夜は暖炉を囲んでの宴会に決まって居る。わーい、此れは是非やりたい。
 併し現実に戻ると、一体誰が行けるのかい?年に何回行けるのかい?暖炉の薪はどうすんだい?建物の保守は?着いたら直ぐに掃除かい?ガラスが割れてたらどうすんの?
 別荘と妾(めかけ)は持つ迄が夢(不適切な表現、失礼)、持ったら大変なだけ、とは見事に真実を言い現わした言葉だ。
 夢だとは言え、小屋を持った処で、結局碌に使う事も無いだろうと、想像がついちまうのがとても悲しい。自分等の山小屋より、営業小屋を使った方が、遥かに合理的って事なのだ。で、この夢も却下。
 山小屋で使えるクーポン券を、ごっそり貰う事。如何にもさもしいですなあ。宝くじに当たりたいと同じで、夢とも言えない。
 其の上に、クーポンで山小屋に泊まったとしても、時間が自由にならないから、結局どうしても自炊になる訳だ(私は早寝なもんで夕食も早い)。だったら、豪華な食事とも無縁な現状と、何ら変わりは無い。
 既述だが、特に北アルプスの小屋の食事は、豪華と言っても間違いでは無いのだ。旅館の食事と大差無い水準なのだ。だから、食堂を覗いても、面白くも何とも無いのだ。昔はカレーライスか詰まらん食事だったので面白かったんだけどね。ま、私は人が悪いと言われても、否定は出来ないですなあ。

2019年9月20日金曜日

夢で逢いましょう その三



 次の夢は、実現不可能だ。相手が大自然なので。どんな夢かってえと、前と殆どダブるんだけど、山に入ったら晴天が続く。登山者なら、まず全員が賛同する夢(いや、願い)。
 そうなって欲しいのだが、決してそうはならない処が良い処なので、天気の良し悪しに一喜一憂するのが哀れです。所詮人間は自然の一部で有るべきなのだから、此れは仕方無いのでしょう。
 冬の上河内岳(2803m)に三度挑戦し、三度敗れたとは何かに書いた。一度は降雪の為、見事に撃退された。
あとの二度は晴天だったものの、余りの強風で前進出来ず、追い返されたのだ。前後してアタックに出たパーティも、皆雪まみれになって帰って来た。這ってなら前進可能だろうが、それではとてもじゃ無いが上河内岳へは到着できない。冬の稜線の強風は、すざまじいのですぞ。
 写真は、その強風で撃退された時に下山途中で見た上河内岳。偉らく残念でしたよ。写真でははっきりしないけど、雪煙が上がってるんですぞ。
 となると、晴天で且つ穏か、が夢な訳だ。どっちにしろ、思うに任せないのが人生なんで、天気だって思うに任せないのは当然だ。従って、見果てぬ夢って事で。
 お目当ての頂上へ、ヘリコプターで降り立つ。うーん、此れはどうかなあ。明らかに登山では無い。遊山で有る。もしやっても、面白くも何とも無いだろう、と想像出来る。
 とは分かってるんだけど、登りが余りに辛い時に、ふと心をよぎるのだ。現に春スキーでは、ピークにヘリで降り立ち滑って下るのは、当たり前の範疇の様だ。
 夏山でも、荷揚げの合間にヘリが登山者を涸沢へ運んで来る。前述だが、何と羨ましい!と思ったものだ。従って、登りが辛い時に、あー、ヘリが運んでくれたらどんなに楽だろう。高くても払っちゃう、と妄想するのだ。
 流石に山頂は抵抗を感じるが、涸沢へヘリで入るなら良いかなあ。一万円なら安い。二万だって払っちゃうぞ、畜生!
私は、弱っちくて駄目な奴ですなあ。それにみみっちい、金額の桁が違うでしょうがね。一つ此処は、忘れてやって下さい(ペコリ)。
 では夢。竹コプターが欲しい! どこでもドアーが欲しい! えーと、勿論下らない冗談です(笑えない?)。ヘリと同じ理由で却下としよう。