2015年11月30日月曜日

達人は行く その三




 さてお次だ。本文の「一期一会」で出会った。仮に男と呼んだ男では無い。彼もなかなかの者だったが、私(若い頃の)程度だ。
 舟窪小屋で一緒になった初老の夫婦で有る。七十位だろう。当たり前だが、野口五郎からの難路(?)を来た好き者では無い。針の木から一緒に来たのだ。
 入山が白馬なのだ。白馬三山、不帰キレット、唐松、五竜、八峰キレット、鹿島槍、爺ヶ岳、赤沢岳、針の木、そして蓮華を越えて、舟窪小屋に来た訳だ。
 早くて六泊目、遅めなら八泊目になる(何せ七十歳)。何度も書いた通りに、金に糸目を付けなけりゃあ充分可能な話だ。
 でもですよ、金に糸目を付けなけりゃあ、もっと良いプランが有るんじゃないの?豪華クルージングとか海外旅行とか、あとは分かんないけど、きっと何か有る。
 それを、敢えて後立の縦走に来るのが偉い! 山が好きなのは分かり切って居るが、そんな長い縦走はやらないって、普通は。三食付きの小屋泊まりは楽だとは言え、風呂にも入れず、小屋は混み(夏だった)、自分の足で歩かなければ、宿には着けないのだ。
 しかも、夫婦仲良く此の長丁場をやったとは、達人と称しても間違いなかろう。
 え、どちらかと言えば人生の達人だって?そうねえ、確かに。 では題名に忠実に行きましょう。取り敢えず、偉く身近な処でNの話にしよう。
 (達人は行く その四へ続く)

2015年11月26日木曜日

閑話 その百七十四




 高取山にYと行って来た。連休最後の日で天気は雨模様との予報だったが、何、小雨位何でもないのさ。
 当日は曇りだった。栗原行きのバスで道路歩きを二十分以上カットする。聖峰がぐっと近くなるのだ。
 霞んではいるが展望はやや有る。流石に十一月も半ば過ぎ、大汗かきのYも大して汗をかいていない。これが暑い日ならじゃぶじゃぶと汗をかくのがYなのだ。
 聖峰からが山らしい。直下の段差の大きい階段にはYも喜んで(?)いた。これで一気に高度を稼ぐ。大腿四頭筋の訓練にも持って来い、良い事ずくめだ。
 天気予報が悪かった所為か、頂上には若者が二人のみ。ジャムパンを食べてとっとと下り出す。心はもう温泉に飛んでいる。
 里湯に十二時四十五分に到着。祝日なので二時間千円で有る。あたしは判が十溜まったので無料だ。十回で一回無料になるの。
 風呂は常より熱い。涼しくなったので温度を上げたのか、祝日なので回転を上げる為なのかのどちらかだろう。
 風呂を上がり、Yはロングチューハイ、あたしはハイボールで乾杯で有る。Yはおつまみに大山豆腐を二皿並べている。「これが美味いんだ。本物のプリンとプッチンプリンの差だよ」とご満悦だ。
 二時間制限だが、千円以上のレシートが有れば一時間無料延長なので、日本酒を注文する。と言っても券を自販機で買うのだけど。おつまみは又大山豆腐。「此れなら幾つでも行けるよ」とYは喜んでいる。
 更にショーチューを追加し、結構酔っ払って里湯を出た。其の時はリュック置場はリュックで一杯。靴を履いている間にもハイカーが入って来る。皆さん山帰りの入浴は魅力なのだろう。当然ですなあ。
 最後迄降られずに済みました。

2015年11月22日日曜日

達人は行く その二




 此処数年で二度会った男性がお次で有る。場所は丹沢で、歳は七十位だろう。程良く油がのった形の良い枝を杖にしており、珍しくも上部に大きめの瓢箪が括り付けられて居る。
 水が入って居る筈は有るまいて。酒に決まって居る。休憩時に栓を抜き、チビッとやるのだろう、羨ましい(涎)。
 私も一時期、沖縄のダチビンが欲しくて仕方無かった。ダチビンを腰に着けて(ダチビンは腰に着け易い形)山歩きをするのだ。そしてたまに泡盛をチビチビやるのだ、フッフッフ。但しダチビンは陶器なので、割れる恐れが有るし重い。
 其の点瓢箪は良い。若き日の信長だって、瓢箪を常に身に着けて居た。尤も入って居るのは水だったのだが(と思う。酒かな?)。
 枝の杖に瓢箪おじさん、一種の達人と評して宜しかろう。いや、仙人の様な人だ、と言うのが正しのかな?
 (達人は行く その三へ続く)

2015年11月19日木曜日

達人は行く その一





 今更改めて書くのも変だけれど、私は無愛想で、且つ勝手な奴だと思われて居るらしい。知人に聞き回った訳では無いので、私が勝手にそう感じて居るだけだ。
 少なくとも、Yには聞いた事が有る。彼曰く、全く其の通り、だそうだ。其れに加えて我儘だそうだ。自覚は、残念乍ら有る。Yは正確に見て居る訳だ。何せ妻より多い時間を、
共に過ごして来たのだから、見抜かれる。同じ会社の同じ部門、一緒に出張にも行き、一緒に山へ行き、其の上同じ劇団仲間でも有るのだから、当たり前の事だ。
 其の無愛想で身勝手で我儘な奴が、山に入ると豹変し、野次馬になる。当然乍ら何度も書いて居る。
 色々な登山者を横目で見て、喜んで居る訳だ。其の人が困って居るなら別だが、さも無けりゃあ見るだけ。変な奴だって?だからはなから、そう言ってるだろがよ!
 さて、題名通りに行こう。とは言っても、私はクライミング(除く、ザレ崖)と海外はやらないので、自分の狭い見聞に限られるのはご容赦。
 三昔前で、尚且つ前述となるが、太郎平への登りで出会った女性を最初にあげよう。三十一寸と前(と見た)のきりっとした人だった。上着もズボンも黒一色だった。
 当時の私は結構速かったが、すと抜かれた。クッソーと頑張ったが追い付けない。どんどん離されるばかり。背にした荷物は違うが、此処は素直にシャッポを脱ぎました。
 洒落たスタイルと言い、颯爽とした歩きと言い、立派に達人で有る。新田次郎が会ったとしたら、彼女を主役に一本書いただろう、と思わされる。尤も彼の悪い癖で、悪役にされちまうだろうけどね。(新田次郎の山岳小説では、女性は殆ど悪役だ)
 (達人は行く その二へ続く)