2015年11月9日月曜日

休題 その百五十六




 “赤ひげ”の続きです。
 加山雄三の成長話と二木てるみの厚生(?)話が二本の大きな柱だが、両方とも心情の変化を表すに衣装を使用して居る。
 加山雄三は長崎帰りのエリートだが、赤ひげの貧民救済療養所、小石川療養所へ送られて偉くプライドを傷つけられ、且つ横暴に感じられる赤ひげにも反発するのだ。
 まあ当然ですな。江戸に帰ればお目見え医と思っていたのだから。当然医師のユフォームのじんべも着ない。きっと見るのも嫌だったのだろう。気持ちは分かる。
 世の中は良くしたもので、其の高慢の鼻が折れる出来事が続出し、現実を思い知らされて赤ひげを認めるに至った加山雄三は、ある朝からお仕着せのじんべ姿で現れる。
 着る物で彼の気持ちの変化を鮮やかに描いた訳だ。自然で上手いですなあ。
 二木てるみは、赤ひげと加山雄三が廓の診察に行ったら客を取らないと言って杉村春子に折檻されていたのだ。
 十二才位の少女で有る。今なら逮捕だが江戸時代の事だ。その二木てるみが高熱なのだ。
赤ひげは邪魔する用心棒を叩きのめして連れて帰り、治療を加山雄三に任せる。すっかり心を閉ざした少女は頑なに薬すら拒む。加山雄三が本当に泣くまで二週間掛かったと言うのは、此の間の事だ。
 やがて少女にも加山雄三の気持ちが通じる。と、両家の御嬢さんの内藤洋子が訪ねて加山雄三と親しく語っている。嫉妬が芽生える訳ですなあ。
 二木てるみのボロボロの着物に気付いた内藤洋子は新しい着物を送って来る。それを二木てるみは引き裂いて捨てて仕舞う。仕方のない子だ。
 まあ、初めて心が解けて人への愛に目覚めたのだから、介抱した加山雄三に向かう訳なのだ。そしてそれが他人への愛へと広がると言う事だ。で、そうなって行くのだ。
 杉村春子が二木てるみを引き取りに来る。拒否すると「こんなボロな格好させやがて」と悪態をつく。
 すると二木てるみが贈られた服を出し「こんな良い着物を貰ったんだ」。何時手直しんだろう? 下らない疑問は置いておこう。
 これで彼女の心の変化が見事に描かれた。改めて思う。上手い。
 低く高く歌い上げるのはヒューマニズムだ。黒沢明の最高傑作と言っても良い作品でる。もし見ていない人が居たら必見です。

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