2015年11月3日火曜日

休題 その百五十五




 黒沢明の集大成と呼ぶべきは“赤ひげ”だろう。此れは黒沢自身もそう言って居るので間違い無いのだ。
 此の作品で今迄の常連俳優とも別れた。三船敏郎にとっても最後の黒沢作品となった。志村喬、千明実、左卜全、藤原釜足、東野英治郎、三井弘次、藤田進、等々も以降の作品には出て居ない。
 構想と準備に一半一寸と、撮影に一年半、都合三年近く掛けた大作で有る。文字通りの大作で、見る方もくたびれる程なのだ。
 複数のカメラで1シーン1カットを撮り、編集で仕上げる。黒沢お得意のカメラワークだ。八分三十三秒と言うシーンが最長だろう。
 此の技法は、演技を途切れる事無く演じ切れるのが特色だ。唯、俳優は演技力は勿論、完全に成り切る事を要求される。舞台と同じ事なのだ。
 此の作品に限らないが、生半可な演技ではOKは出さない。加山雄三が二木てるみに茶碗を払われて悔し泣きするシーンは、加山雄三が本当に泣ける迄二週間待った。役に成り切らねば進まない。おー、こわっ。
 主役の魅力は、黒沢作品でも群を抜いて居ると私には思われる。黒沢の理想像が結実したものと言う事だろう。三船敏郎が其れを見事に演じ切って居る。世界の黒沢と世界の船、ゴールデンコンビの満開ってとこだろう。
 前半は加山雄三の成長話、後半は二木てるみの厚生(?)話と見て良いかな。因みに二木てるみは此れで天才子役と呼ばれる事になったが、全く其の通りだと思える。
 では、続きます。

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