2019年8月31日土曜日

閑話 その二百九十九



 天神尾根を目指すのが正解だった。あとからしみじみ思うもの~♪ってね。
 一寸と邪まな心が生じた。未だF4だ、少なくともF5はやりたい。そして左岸(詰まり右側)へ登れば花立尾根(仮称)に出るだろうから、それを下れば一番早い。よし、それにしよう!
 F5は無事に越えました、目出度い。少々行くとF6だ。これは手前の小さな涸れ沢を登って巻くのが常だが、今回は涸れ沢を行けるだけ行って尾根に取り付くのだ。
 一寸とでつるっとした岩になった。2m一寸とだが、ヤモリでなければ登れない。あたしはヤモリじゃないのでYに手を組んで貰って足をのせ、持ち上げて貰い乍ら這い登った。Yはサブザイルを使って登る。
 そこからは土ザレだが蹴込めるので不安はない。やがて植林に入り、意識して右方向へ登る。花立尾根へ出る為だ。尾根に出たが方向が微妙に違う。更に右に進むが、もう植林は飛び出した。が、微かな踏み跡はある。
 尾根に出た。磁石で確認すると方向は合っている。植林はない。勿論路もない。踏み跡すらない。ここで迷ってしまった。うっかり違う尾根を下れば、源次郎に出たとしたら崖の上に出ちまう。うーん、間違えたら取り返しがつかない。セオリー通りを選んだ。分からなくなったら登るべし!
 登り始めたらなかなか長い。やがて植林に入ったり、そこも出たり、登りは続く。踏み跡も時々出て来る。間違いなく花立尾根だった訳だ。少々残念ではあるが、登る、との決定は一番安全な選択であったのだ、と自分を無理やり納得させる。
 安全はとても大事だが、Yには偉い苦行になってしまった。決して歩き良くはない斜面をひたすらストックに縋って行く。アブやブヨが付きまとって刺す。あたしも刺されるんだけどね。(続)

2019年8月28日水曜日

閑話 その二百九十八



 沢に下る道標が撤去されていた。さあさあ源次郎沢ですよ、どうぞお試し下さい、と思われるのを嫌ったのかな。事故があったら大事だし、何で道標を立てたんだと責められる時代にもなったて事ですか。
 水量はたっぷりである。F1の水量に恐れをなして巻こうとしたが、適当な巻き口がないので(あるんだろうが見つけられず)釜にジャブジャブ入って流れの直ぐ横を登った。
 F2、F3とジャブジャブと登る。F4が困った。直登を試みたが流れが激しくて目が開けられない、従って登れない。尤もあの水圧には勝てなかっただろう。
 右手の岩を登った覚えがあるが、その時に頼った捨て綱は朽ち果てていた。それでも頑張れば良いのだろうが、多分四年の歳月を経ているので、その自信がないのだ(涙)。
 で、左から巻く事にした。前にも何度か巻いた滝だ、ここいらだろうと検討をつけて取り付いたのが大間違い。
 簡単そうに見えた土ザレが偉く手強い。全然足を支えてくれない。「Y、登山靴で蹴込んでくれ」「蹴込めない、底のブロックでやっと引っ掛かってるの」。行くしかないですなあ。岩が行く手を邪魔する。「Y、岩を左に回って来るんだ」。岩ったって、緑に苔むした全く頼りにならない奴なのだ。
 何とか土ザレを突破した。詰まらない所で、命懸け(ほんの少しオーバー、でも命懸けに近い)の這い登りをしたものだ。やっと小尾根に立つと踏み跡が有って川原へ降りている。踏み跡は先から来ている。詰まり本来の巻き道はもっと大巻きしていた訳だ。良くある余分な大苦労でした。
 川原に降りて考えた。此処に来る迄にYは何度かつっている。その上今の土ザレで尚も消耗した筈だ。小尾根に戻って登れば天神尾根に着く。Yの消耗度からしてそれが一番なのでは、と。(続)

2019年8月24日土曜日

閑話 その二百九十七



 最近、単独での沢登りは源次郎に何度か行ったきりだ。Yと一緒だと、一ノ沢ばかりで、沢らしい沢は数年前の道志のモチハギ沢(凄く短いんだけどね)が最後だろう。道志村で登った者がいないので、と情報を聞かれてあたしが説明してる間、出されたキュウリの漬物とモロキュウをYがバリバリ食べまくったと言うあれである。
 では、久し振りに沢をやろう、それも多少は沢らしい奴を、と話がまとまり、源次郎に入る事になった。戸沢出会い迄タクシーで入ってザックを置き、アタックザックで沢をやってテントを張って一泊と言うグータラ計画。テント場が空くであろうお盆が終わった直後の月火、つまり十九日、二十日に決めた。
 秦野で待ち合わせてタクシーに乗り込む。女性運転手は、戸沢出会いは一回だけ、それも団体さんで、タクシー七台を連ねて行ったきりだと言う。
 滝沢園迄来たら、台風十号の為通行止め、と看板がある。えー!此処迄じゃどうしようもないよ、せめて新茅荘迄行ってよ、と頼み込んで進んで貰ったが、彼女は違反になるかもとすっかりビビッて、石が跳ねて底に当たるし、せめて泉迄は行って欲しかったが、ずっと手前で降りる事になった。これは天災、まあ仕方ないですなあ。
 幕営具を背負って林道歩き、最後の登りに掛かるとYの腿内側がつった。暑いし蒸すし、林道歩きでも容赦なくやられるのだ。
 戸沢出会い手前は崩れた土砂が積もっていた。乗用車では通行不能だろう。軽トラやジムニーは通行している。小屋の車だったのだろう。従ってテント場は見事に空っぽ。静かな夜が過ごせてあたしらは良いが、小屋には大打撃だろう、掻き入れ時だってえのに。
 ザックを置いてアタックザックを背に歩き出す。越す流れも、やけに水量が多い。普段の三倍近い量だ。(続)

2019年8月20日火曜日

休題 その二百六十一



 先々月だが、急にシルバーからボランティアに来てくれと連絡が有った。“おれおれ詐欺”防止キャンペーンだそうで、駅前の銀行集合である。空き日だったので参加しました。
 シルバーで四十人位、防犯グループが二十人、警察官が十人程、銀行員も十人程で、結構大勢集まった。銀行前はボランティアで埋まった感じだ。着ぐるみも二体、警視庁のマスコットのピーポー君と町田ゼルビア(サッカーチーム)のマスコット、ゼルビーだ。
 ゼルビーは鳥だが、らしくできている。ピーポー君がひどい。半端でなくひどい。本当は可愛らしい姿なのに、現れた着ぐるみは変なおじさん顔で、可愛いどころか気持ちが悪い。どうすればあんなにひどくできるんだ?
 小さな子供を抱いた父親がやって来た。子供は正直だ、不気味なピーポー君を見て激しく泣き出した。警官が慌てて「中に入ってろ」とピーポー君を銀行に押し込んで「どうぞお通り下さい」。何の為のピーポー君なんだ?
 例に依って市長と警察署長の挨拶から始まる。そして写真撮影である。隠されていたピーポー君も再び登場だ。シルバーの爺さん達と「何たって写真がメインだよなあ」「市と警察の広報に出す為だろうさ」と言い交わす。皆さん良く分かってらっしゃるw
 想定以上の人数だったらしく、配りものは意外と早く終わってしまった。これで本当に“おれおれ詐欺”が防げるのか、と言う疑問はこの際置いておいて、防止運動を行う事に意義があるのだとしておこう。
 町田シルバーの機関紙が隔月に発酵される。そのボランティアの写真も勿論掲載されていた。妻にはピーポー君の一件も話してあったので、ほら、これがそのピーポー君だと見せた。「何、これー!」
 そうです、似ても似つかないのだ。あんなの破棄して造り直すべきだろう。子供に泣かれるマスコットなんざ無意味ですぞ。