2023年3月30日木曜日

山の報告です その二百六

 


 テントで乾杯なぞしていると、表を人が通る。流石に快晴の日曜日です。この夜は前夜に増して冷えました。

 翌朝も快晴、何せYは下りに難ありなので大事を取って六時過ぎには出発とする。三時間見れば充分だろう、地図上は一時間十五分なんだから。もし早く着いたらコーヒーを沸かす準備迄しておいた。テントを撤収した時、稜線に日が迫って来たのが上の写真。

 雪はギンギンに締まっていてアイゼンが気持ち良く効く。サクサクと良い感じで下った、始めのうちは、です。

 そのうちにYがギャップに悩み始め、うっかり転ぶと起き上がるのに偉い苦労をする様になった。急な下りが続くので踏ん張りが効かなくなったのだ。そうなると休み休み騙し騙し下るしか手はない。Yは「うー、はー」と頑張っている。

 やっと登山口に降り立った。若者がいて「このルートは急ですか?」と聞く。「前半は急だけど早いですよ」と答えると嬉しそうにアイゼンを着け始めた。若者よ、気を付けて。

 コーヒーを沸かすどころではなかった。バスは三十分後、装備を仕舞ってほっとしてると満員のバスが来た。月曜だぞ、何で混んでるんだ。皆さん次の日の休日と合わせて四連休にしたのだな。

 湯沢に着くと切符売り場に列、こりゃいかん、”とき”ではなく”谷川”で帰ろう。一時間後の列車と決め、大慌てで入浴して急いで蕎麦を食べて、ビールを買い込んでドタドタとホームに立つと誰もいない。やがて殆ど空っぽの”谷川”が入線、”とき”でも良かったじゃん、慌ててバカ見たってこってす。

 Yも新幹線でゆったりとビールを飲んで、やっとほっとしている。その気持ちは良く分かる。あたしの左耳は腫れてリンパ液が沁み出している。簡単な凍傷です。気象を読み違えて残念な山でした。自業自得の巻なのだが、こんな事が遭難に繋がるので反省するです、はい!

2023年3月27日月曜日

山の報告です その二百五


  前回、小屋から来た人もいるだろう、と書いた。その小屋が平標小屋で、頂上から見下ろせる。小屋の立ってる稜線が上越国境稜線で、小屋から三国峠を越えた大分先迄が樹林帯で、標高の低い部分となる。上の写真の右下に小屋が見える。

 頂上の人は入れ替わるが、多くはピストンで、若者である。あ、あたしが言う若者とは四十代中半迄なのです。山に強い盛りです。今回出会った80%はその若者達。残りはそれ以外で(当たり前か)、小屋泊りと思われる。

 さて、暫く下ると風が一気に弱まった。かと言って今更登り返す気力なんざない。薬にしたくともない。余程参っていたのだろう。Yにも登り返すなんて気は更々なく「風がないと何て楽なんだ」なぞと言い乍ら下る。今書いていて、何と残念な話だと歯噛みしてるです。あたしのバカ! と言いたいだよ。

 単独行の男性に追い付いた。我々に追い付かれるとは、そうです、七十代近しの人。我々が風がなくなったので休んだから、追い抜きはしなかった。下りは楽で、進んで行くと三人パーティが休んでいた。彼等も中高年。小屋泊りでゆっくり雪山を楽しんでいるのだろう。年齢に合わせた賢い登り方だ。あたしみたく装備を間違える事もなく、立派だ。え、お前が間抜けなんだって? そうです。。。。


 
 この写真の右一寸と上のピークが松手山、その背後の平たいピークにテントを張ってある。斜面の向こう側なので写っていない。

 テントに帰り着くと十三時を回っている。えー、六時間も経ったのけえ。地図上では平標往復は二時間だぞ。登りに強風と雪に偉く手古摺ったけど、二時間半以内で登った筈だ(多分)。頂上には一時間もいられない。凄く寒くて無理無理。

 あなたの知らない不思議な世界ですなあ。きっと低体温症でボヤボヤしたんだろう。サブザックの水に氷の塊ができた程の寒さだったのだから。(続)

2023年3月25日土曜日

山の報告です その二百四


  間抜けなあたしはYのセーターで多少息を吹き返し、ノロノロ登ったですよ。Yにはそのスピードで丁度良かったのだから、二人共OKって事でどうでしょう?矢張りダメ?

 驚異的なのはYの寒さに強さが尋常ではない事だ。真冬の丹沢で雪を踏み乍ら半袖シャツ一枚で湯気を吹いて登る男だが、雪の上越稜線で強い寒風に晒されても何でもない。ただ、エンジンが直ぐにヒートアップするのが難点だ。それに筋力の衰えも加わった。

 兎に角どうにか我々も平標の頂上に辿り着いた。十人以上の登山者がいる。小屋から来た諸君もいるのだろう。風邪は容赦なく吹き付けている。

 眼前は絶景なのだが手がかじかんでカメラの操作が思うに任さない。電池も作動しない。電池の入り口を叩いてみたら部品が飛んだ。それには電気回路が組み込まれているので、風の中で必死に直したです。バカちゃうかって思い乍ら、情けんなかあ。やっと撮った写真もシャッター速度が狂って白っぽくなっちまったです。上がそれ。

 思えば快晴、片端から良い写真が撮れただろうに、この時は写真なんてどうでも良いって感じだった。目的地仙ノ倉は目前なのに、とても行くどころではない。まあ、軽い低体温症は間違いなしでしょう。フラフラしてんだし、リュックのチャックも閉められずにYに閉めて貰う有様だ。Yも仙ノ倉へ行きたいとは全く思ってないので下山とする。

 勿体ない事をした。冬山装備を整えていさえすれば仙ノ倉に立てたのに。もうこんな機会は二度とないだろうになあ。己のバカを恨むしかないですなあ。(涙)

 ここで下山は惜しいと思ったかって?全く思わない。ただ風に揺すぶられているだけなの。早く脱出したいの一心だった。Yだって平気な顔をしているが風には参っているのだ。バカなあたしと寒さに強いYは下り始めたのです。(続)