2017年1月29日日曜日

閑話 その二百十八




 妻は下りでは元気よく下るけど一寸と登りになるとガクッと速度が落ちる。精密傾斜測定器かと疑われる。其の日はあたしも同じ状態に堕ち込んで居た。小さな緩い登りでも応えるのだ。急いじゃいけないってこってす。
 従って、丁度妻と歩調が合った。普段なら何度も立ち止まって妻を待つのだ。何度も嘆いて申し訳ないけど、たった12Kgだよお。
 吾妻山では小休止を取った。何時もは吾妻神社に礼をしてとっとと下って行くのにだ。リュックが肩に喰い込むので、荷を降ろしたかったの。たった12……、やめよう、泣き言を言っても始まらない。
 初めに少々急いだだけで此の有様だ。余程気を付けなければなあ、と反省しつつ里湯へ向かう道の長く感じられた事。一方の妻は足取りも軽い。
 思えば二年前、高取山でのリハを始めた時はこんなだった。と言う事は、続けて頑張りさえすれば、やがて12kgを背負って普通に歩ける様になるって事だろう。其の日が来る迄、フラフラと耐えるのみですなあ。
 里湯でリュックを収めるのにも「重いなあ」と呆れる。そんな自分に改めて呆れる。何時、普通に歩ける日が来るの?と疑問を感じる一瞬で有る。
 里湯、それも男湯は混雑して大変。カランが空くのを待つ有様。妻に聞くと、女湯はそうでもないとの事。日帰り温泉は男が好むのだろう。出てからの化粧が不要と言うのが大きな要素かも知れない。
 風呂上りにハイボールと発泡酒で喉を潤し、大山豆腐をつまんで里湯を出る。駅前の箱根蕎麦で昼飯とする。もう二時過ぎてんだけどね。里湯には良い食事が無いので仕方無い。それに箱根蕎麦は夫婦揃って大好きなのだ。
 妻は弘法山コースならもう普通に歩く。尤も、散歩コースと言っても良い所なんだから、そうであって当然なのです。

2017年1月25日水曜日

閑話 その二百十七




 高取山に飽きもせず通って普通に歩ける様になり、塔にも立てたので負荷を掛ける事にした、とは既述である。たった12Kgが思いの外厳しいとも書いた。
 年末の二十九日、救急車から丸二年の記念日には四回目の12Kgだった。十一月十日が初めてなのだから、割と頑張った訳だ。
其の日は妻も行くと言う。妻は弘法山から入り、善波の分岐点付近で合流というパターンである。
 あたしは前日からくしゃみの連続、鼻水は垂れ放題の有様で、思い切り汗をかいて温泉に入れば治るさ、と出掛けたのだ。何せ仕事をしていても帳面に鼻水が垂れるんだから。
 天気は上々、妻はゆっくり出掛ければ良いので先に家を出る。リュックを背負うにも一苦労するのが可笑しい。昔は30Kgをひょいと背負ったのにね。全身が衰え果てているってこってす。
 高取山に着けば気息奄々、これはまあ、常の事。ただ、待ち合わせが有るので気が急いて、多少急いでは来た。為に大分ダメージが有って、フラフラと下り出す塩梅だ。
 たった12Kgなのにさあ。何度も嘆いて何だけど、本当に情けんなかあ。下手すっと腰も痛めるし、ダメだねこりゃあ。
 念仏山で携帯へ掛けると、弘法山に着いたと言う。丁度良い塩梅だ、とフラフラと下り出す。未だフラフラしてるのかって? そうなの。ずーっとフラフラしてるだよ。
 何パーティかと擦れ違って善波へ向かう。合流点に着くと1m前を妻が行歩いており、振り返ってあたしに気付いた。再び奇跡的邂逅である。打ち合わせてもこうは行くまて。
 前に合流点で出会った時は同時だった。今回は一秒差以内だ。宇宙ステーションへのドッキング並みの正確さと言える。まあ、全くの偶然なんだけどね。
 妻は元気であたしはフラフラ、続きます。

2017年1月22日日曜日

閑話 その二百十六




 植林道に出た。其の侭下るのが手っ取り早いのだが、歩き易さを優先して植林道を行くと、鉄塔で終わった。鉄塔道だった訳だ。
 背の低い笹の中を尾根沿いに下る。大した下りでは無いし植林より歩き良い。SとKは前途が不安らしい。当然である。
S「大丈夫か?」
私「大丈夫」
 まあ何とかなるもんだ。麓近く迄降りて来ている筈だ。と、鹿避け柵が現れた。此れを越えさせるのは難しいぞ、と見回すと、扉が有った。ラッキーにも柵通過だ。
 切った竹がシイ本ずつ束になって置いて有る。作業所に出たのだろう。
S「あそこ、車の道じゃないのか?」
 見ると、そのように見える唯の斜面だ。
私「違うよ。こっちを行くから」
 緩い斜面のトラバースを始める。
S「道だよ、竹を運ぶ道だ」
 位置を変えて見直すと道だった。
私「本当だ、Sの言う通りだ」
 里に下り着いていた訳だ。どうにもだらしない有様で、首を竦める気分である。しかし無事に(?)下れたのは何よりであった。
 バス通りへは一寸と有ったが、舗装道路なので心配いらない。秦野へ出て鶴巻温泉で途中下車、里湯で入浴する。
 風呂上りは、此のメンバーだと二階ではなく一階の蕎麦屋に入る事が多い。此の回もそうだった。蕎麦屋は高くつくんだが、金に不自由無いSとKは気にもしない。ま、仕方無いとは此の事。
 しっかり飲んでしっかり食べて、再度小田急に乗り込んだ時は夕方近くだっただろう。簡単な“山下り”が思いがけず植林くだりになっちまったのは、あたしの不明の致す処、余計な苦労をKには掛けて仕舞った。
 今年はドジらぬよう致すですよ。

2017年1月19日木曜日

閑話 その二百十五




 引き返して高取山へ向かって下れば、正しい路が有るのは分かって居る。それをやらずにショーカットを考えるのがあたしの悪い癖なのだが、又やっちまったぜ。
 迷ったら確実な地点に戻るべし、なぞと偉そうにのたもうのに、自分は守らないとは、山尾議員が様な奴で有る。あたし一人なら問題無い。今回は下りが苦手なKが居るのだ。
 Kの右足首は外側に傾いて固まって仕舞った。だもんで接地面積が極めて少ないので滑る。依って下りに弱いとなるが、実際にも偉く困難なのだろう。
 そんな事情を考慮しないあたしは人でなしで有る。其の人でなしは下れそうな所を探し乍ら歩く。
「此処を下れば行けそうだな」
 勿論二人は反対する。又探し乍ら行く。
「うん、此処だ、ほら、下り易そうだろう」
 植林帯だ。見た目には如何にも下り易そうなのだ。処が登りでも下りでも、植林道以外は思いの外歩き辛い。其処で仕事をしてる林業関係者の苦労が良く分かる。
 結果としてKはあたしの断固たる口調に騙された。勿論騙す気なんざ全く無いのだが、早く下る事を優先した人でなしのあたしは、Kの苦労を考慮の二番目にして居たと言う意味で、結果は騙した、となるのだ。
 良い歳なのにダメですなあ。ダメリーダーの見本みたくなっちまってたですなあ。
 で、植林に踏み込んだ。土がズルズル滑るので、Kは勿論Sも結構難渋して居る。そんな所を歩き慣れて居るのは林業の人だけだろう。あと、まれな物好きな奴。たとえばあたしが様なアホってこったね。
 Kはたまに滑って、たまに転ぶ。Sがフォローして居る。枝に引っ掛かって傷を負った。ーファリン服用の為、出血は結構有る。でもズボンは破れて無い。確りした用具大したものなのだ。続きます。