2010年6月5日土曜日

雨とアキレス腱 その三

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 写真は畦ヶ丸の章で使用済みのもので、失礼しました。
 そんな事(倒木越え)を繰り返して居るうちに、びしょ濡れで体は冷え切った。カッターに半ズボンなんだから当然至極、おまけに雨具も持たない己の愚かさだ。従って文句はごぜえやせん。
 尤も、当時の雨具はポンチョだったので、倒木越を繰り返せば、どっちみちびしょ濡れが運命だったのだろう。天命抗し難しなのですなあ。
 ポンチョを知らない人も居るだろうから、説明しよう。今は消え去った(と思われる)登山用雨具で、元は中南米の衣装の様だ。四角いゴム引き布(もしくはビニール)の真ん中に穴を開け、フードを付けたと言う簡易な物だ。従って這ったりすれば、一発で濡れる。風でも濡れる。
 白峰三山で吹き降りに会った時の雨具がポンチョだった。強風に煽られてはためき、雨避けなんかにゃ、薬にしたくともならなかった。ひたすら濡れてひたすら寒かった。
 話を甲相国境稜線へ戻そう。
 此れもやがて本文で触れるが、段々アキレス腱が痛み出した。其れも左右両方共。最初は小枝でも入って痛むのだろうと思って居たが、違った。純粋にアキレス腱が痛いのだ。初めての症状だが、此処で停滞って訳にも行かずに、畦の避難小屋へ頑張って到着。靴を脱いで見ると、アキレス腱は腫れ上がって居た。
 で、雨とアキレス腱の故障の為、避難小屋で二泊したのは畦ヶ丸の章の通り。唯火を焚いて、炎を見て居る。思えば唯一人、時間の流れに任せる、貴重な二泊だったのだ。(水汲みには行ったですよ)
 四日目、幸いにも雨は降り続き、アキレス腱も腫れた侭、万歳!
 畦ヶ丸の避難小屋に住み着く訳にも行くまい。衣類は折角乾いたのに、何が悲しくてか雨の中へキスリングを背負って出て行く。すぐに濡れそぼっちまう。
 国境稜線の細かいアップダウンは、故障持ちには鬱陶しかった。何も見えないし。故障が無く好天だったら、全然世界が違った事だろう。でも、実際は故障持ちが雨に打たれて冷え切って、ヨロヨロ歩いて居る。偉く楽しいな~。
 何とかアキレス腱を騙し騙し、加入道へ登って大室山を越し、犬越路に下って檜洞丸に登り返し、山頂で四泊目のテントを張る。其の折りの事柄は後の章で詳しく書きましょう。今なら、良く歩いたと思えるのだが、当時の計画では蛭迄行く筈だった。アキレス腱の痛みが耐え難く、予定変更したのだ。う―ん、畦から蛭迄重荷を背負って一日で歩くつもりだったんだ。我乍ら、若いとは素晴らしい。
 (雨とアキレス腱 その四へ続く)

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