2024年4月19日金曜日

休題 その五百十七


  「怪物に出会った日」は前章で終わりにするつもりだった。森合正範氏が五年も懸けて内外の選手にインタビューした本の、ほんの一部を切り取ってブログに載せるんではあんまりだ、と思ったです。せめて森合氏の言いたかった事、多分後書きに凝縮されているのでその一部でも紹介するのが筋でしょう。

 帯封に森川ジョージ氏(初めの一歩の作者)が「井上尚弥と闘うということはかくも大変なことなのか」と書いている。この本を的確に表現しています。

 さて、エピローグと名付けられた後書き。”ボクシングを変えた男”の小見出しで始まる。ドコモがスポンサーに付いて従来の何倍ものファイトマネーを相手に提示できる様になった。相手にとっては勝っても負けても闘う価値がある。そして、尚弥と闘えば世界の注目を集める。日本ではTV放映はなくなり、ネット配信になった。視聴方法も変えた。

 取材は驚きの連続だったと言う。対戦相手は時間を気にせず、ずっと井上戦の話をしてくれる。更に驚いたのは総ての選手が試合の詳細、その時の感情を克明に覚えていることだ、と書く。佐野友樹から尚弥がフルトンに勝った時にメッセージが来たので電話して、何故尚弥と闘ったボクサーははっきりと試合を記憶しているのか聞いた。佐野は「命懸けで闘ったからじゃないですか。百試合近くやってますが、正直覚えていない試合の方が多いです。井上君は特別で、一瞬一瞬が命懸けになる、だから確り覚えている」。佐野は言葉を続け「井上君の試合を見るたび、こんな偉大な選手と試合をしたんだなと思います。ボクサー冥利に尽きます」。敗者は勝者に夢を託し、勝者は語らず歯医者の人生を背負って闘う。それが本物のチャンピオンなのだろう、と森合氏。

 最後に歌う様に森合氏は書く。井上尚弥と闘った彼等は敗者なのだろうか。皆が人生の大きな勲章を手に入れて次に進む糧を手に入れた。

 森谷さん、ご苦労様でした。良い本を有難うございます。

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