2009年1月24日土曜日

林道でニギニギ その二

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 ???原小屋沢はぴったり詰めると水場へ出て、藪をこがずに済む良い沢なのだ。私もぴったり詰めた。水場から登山道迄、立派な路になっていて苦労しないのが売りなのに???どうやって迷うのだろう。
 でも事実です。事実は小説よりも奇なり。何日目かに、捜索隊の声が聞こえる。お―い、おーい、何々さーん。その人はさぞかし喜んだ事だろう、これで助かった!でも、助けてー、と叫ぶが声がかすれて届かない。無情にも捜索隊の声は遠ざかって行く。さぞや絶望した事だろう。結局彼は、偶然路を間違えて来た人に発見され、生還できたとの事。奇跡的だ。兎に角その人は、山にはホイッスルを持って行くべきだと、力説した由。余程声が出せなかったのが悲しかったのだろう。
 次の例は二月末。季節が過酷だ。熊木沢ルートか、弁当沢ノ頭コースかを下った人(済みません忘れちまった、アルツだ)が、迷って降り切れなくなった。
 ??でも前例よりは未だ分かる。所々不明瞭なコースだ。変に深みにはまると、崖で動けなくなる。で、彼は五日近く生き抜いて林道へ降りる事ができた。普通は数時間で林道へ行けるんだけども、それはこの際言わない。大した生命力で有る。私なら二晩で安らかな眠りに着いてしまっただろう。彼は冬眠中の蛙を掘って食べたそうだ。立派なレンジャー隊員になれる。
 彼はユーシンへ着けば助かると思い続けていたのだろう。当時ユーシンには小屋が有った。何とか林道に降り着いたそうだ。処が車道が少し高いので這い上がれない。相当ヤバイ、彼の体力は最早限界に達していたのだろう。上体だけを出していたら車が来た。手を振って叫びたいが、力が入らないのだ。あーもどかしい。仕方なくニギニギをした。一度減速して止まりかけた車は、急加速して走り去った。
 責められない。林道の横で何だか分からん汚い物(失礼、でも汚いに決まってる)がニギニギしていりゃあ、誰でも逃げる。勿論私もだ。(ひょっとして貴方もそうでは?)
 彼はさぞやがっかりした事だろう。お、捨てる神あれば拾う神あり、次の車が来た。ラッキー!今度は殊勝な方であった。降りて来て、どうしました?と聞いてくれたそうな。偉い、貴方は偉い、日本人も、まだまだ捨てたものではない!レンジャーの彼、蚊の鳴くような声(多分)で答えて曰く「ユーシンへ、連れて行って下さい」。
 哀れです。ユーシンだけが生きる望みだなんて。そんな人生、真っ平だ!
 冗談を言ってる場合じゃない。車の彼は分かっている人だった。ユーシンどころじゃないでしょう、と、車に乗せて松田の病院へ走った。だから彼の経験を聞けた。有難う御座います、車の方。 (林道でニギニギ その三へ続く)

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