2009年1月19日月曜日

閑話 その八

冬、人

 一人でラッセルしたのは精々300m、限界でした、もはやとっくに若く無い!すごすごウソッコ沢小屋へ戻った。今から下っても一日一本のバスは無い。それに運休だろうし。すると尾根を詰めると言っていた男性もすごすごと現れた。ラッセル敗退の同士よ、ご苦労さん!
 翌朝は曇り。私は下山、敗退の同士は雪遊び。畑薙ダムの公衆電話からタクシー会社に電話。
タクシー屋「雪が降ったので行けません。どこか下の集落から又電話下さい」
 何だよ静岡交通!此の位の雪なら東京のタクシーだって平気の平左だぞ、東北のタクシーなら、片目片腕で鼻歌でやって来るってんだ!ああそうかい、やってやろうじゃねえかい、歩いて見せらあ、こちとら登山者でえっ!(え、其の意気をラッセルで見せろって?……無言)
 結局、雪を見に来た車に拾われ静岡駅に送って貰いました。口ほどにも無いです、はい。
 さて其の翌年、三度(みたびと読んで下さい)静岡駅。目出度くバスで何時もの通り、ウソッコ沢小屋は一人きり。茶臼の夜は若者と中年の単独行者と同宿だ。偉く寒い、二年前は満員だったので暖かかったのだ。今回は三人のみだから、森々と冷える。
若者「ダイオードのヘッドランプを買ったんですけど、電池が六十時間もつんですよ」
私・中年「ほー、凄い」
若者「唯、色がブルーなんで寒い感じです」
 若者はヘッドランプを取り出し
若者「あれ、変だ、点かない」
中年「なーんだ、電池切れだろう」
若者「新品電池なんだけど」
私「冷えると電池は消耗するよ」
 若者は電池を入れ替えた。ぱっと青い光が広がったが、確かに寒々しい。
若者「本当だ、冬だと電池がもたないんだ」
中年「此の色は寒くていけねえや」
 中年氏は十本程(!)ローソクを出し、火を点け、私と若者もローソクを出し火を点けた。確かに物理的にも精神的にも暖かい。やけにローソクだらけで一寸と変では有るが。
中年「な、こっちの方が良いや」
 で、翌朝は二年前と同じガスとより強い風。一応稜線には出たが、完璧に歩行困難、匍匐では上河内岳には辿り着けない。諦めて振り返るとガスが薄れ、茶臼小屋が折り良く見えて朝日に染まっている。やったー。

FH000126

 写真をと思いビニール袋からカメラを出した瞬間、ビニール袋は風が手から捥ぎ取って、あっと言う間に宙に消えた。強風ですなあ。
 下山の一手だがトレースも風で消えている。其処は良くしたもので、前日こんな事も有ろうと、トラバースの目標を覚えておいたのだ。歳を取って良かったのはそんなとこかなあ。
 で、無事下山、おまけに後から降りて来た若者の車で静岡駅迄送って貰えた。それで、上河内岳は?それは、何時の日にか行きたいのです。最早見果てぬ夢なのだろうか。

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