2009年1月11日日曜日

蛭ヶ岳のビールのぬるい訳 その四

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 正面は富士山で有る。一寸と目の下には臼ヶ岳と桧洞丸が形良く鎮座していて、其の右隣には大室山。左には塔へ連なる稜線が、右には姫次から袖平への柔らかな尾根が見える。冬なら富士の右に白銀の南アルプスが望めるのだ。流石丹沢山塊の最高峰、掛け値なしの絶景なのだ。
 ある秋の夕暮れ、ビール片手に景色を見ていると十人程のパーティが桧洞側から登って来、一寸と景色に目をやり、原小屋平方面に下りて行った。多分幕営なのだろう(内緒です、丹沢は本来幕営禁止です)、日暮れが近づいた為急いでいた様だ。
 間も無く、男性に伴われた娘が登って来た。今の本隊に遅れたらしい。
男性「良く頑張った。後は下りだからね」
娘「……」
 娘さんは夕暮れの景観を見、感動で(そしてもう登らなくて良いという安堵で)静かに泣き出した。美しい光景だ。
 二人が去って間も無く、太めの中年女性を、男一人がザイルで引っ張り、もう一人が後ろから押し上げて、登って来た。これがそのパーティのラストのグループだったのだ。
男「(ゼイゼイ)さあ、日が暮れる」
女性「(ゼイゼイ)うー……」
別の男「(ゼイゼイ)さあ、頑張ろう」
女性「(ゼイゼイ)うー……」
 美しくない。唯々気の毒だった。夕暮れの景観に似合う状況とは、おのずと限られるものなんですね……。
 雪が積もると綺麗なスカブラが現れる事も有る。粉雪が風に巻き上げられ、真っ青な空で煌く。綺麗わー!(失礼、関西のおばはんでもないのに)
 夜、小屋の裏に回ると、黒々とした大山を前景に、相模平野と関東平野の大夜景、光の海なのだ。少々の寒さなんざ我慢しよう。当時はダルマの空き瓶が山になっていたから、気をつけよう(ま、今は無いんだけど)。Rさんはダルマ(ウイスキーですよ)が好きだった。前にも触れたがビールも好きだった。ま、酒なら何でも好きだったのかも知れない。
 私はこう見えて(こうって何?)シャイで人見知りで、人には無関心の傾向が大いに有るが、山では変わるみたいだ。あのパーティはどこそこへ向かうみたい、とか、あの人はテルモスにコーヒーが入っているとか、どうでも良い事が気になってしまう。(詰まりヤジ馬?)
 特に小屋で出す食事が興味津津。私は何時でも自炊宿泊なので、ご苦労にもわざわざ見に行く。昔の蛭の小屋は、原則自炊なので、ろくな食事は無いとうたっていた。最高じゃんかさー、そう来なくっちゃ!北アルプスの小屋なぞ、しっかりした食事なので、食堂を覗きに行っても面白くも何とも無い。自分の粗末な食事が悲しくなるだけ。フン、楽して美味いもんでも食って、豚になっちまえ!(済みません、僻み根性です、捻くれてるもんで……)
 蛭では混んだ時こそねらい目だ。煮炊きが間に合わないのでレトルト食品になる。フッフッフッフ……。 (蛭ヶ岳のビールのぬるい訳 その五に続く)

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