2009年2月11日水曜日

閑話 その十一

店 002

 ナーゲルの話を一つ。和訳すれば鋲靴ってとこだろう。ビブラム登場迄の靴のスタンダードだった様だ。登山靴、軍靴、作業靴、そしてインディン・ジョーンズの靴。
 絵を出せれば簡単なのだが、底だけなので拙い文章で説明を試みよう。(え、無駄だって?遣って見なきゃ分からん!)
 さて、ぺっぺ(手に唾を掛ける音)、当たり前ながら革靴で、折り返しが付くのが普通だが、折り返しは今は無いので、靴の上に余分な皮が付いていると解釈して貰いたい。何に使うかと言うと、それを持ち上げて上にゲートルを巻く為なので、ゲートルとは何だと聞かれたら、本題と違うので答えを保留する。
 本題は底だ。ゴムでは無い。皮を重ねて張り合わせ、踵部は厚くし見事に靴底を造る。革靴でビブラムを張る基底部はそれに近く、其の皮部分全部が靴底になったと思えば基本的にOK!
で、皮が底なら消耗が激しい。何せ、登山や戦争やインディン・ジョーンズをやってる訳だから無理も無い。なおも悪い事に皮は滑るし、岩の上でインディン・ジョーンズが滑って転んだら映画は、はいそれで終わり。
 鋲を打って皮底を保護しよう、そうすれば減らないし、滑らないし。軟鉄のムガー、クリンカーを打って出来上がり。やった!ばっちり皮底が保護されたし、滑らなくなった、万歳!
 そして登山靴や軍靴やイン……、止めよう。でも重くなった。鉄の鋲だらけなんだから。滑らないとは比較の問題で、ビブラムから見れば滑る滑る。濡れた岩とは確かに相性が良くて食いつくが、乾いた岩とかコンクリートの上では、ローラースケート状態だ。駅でも町でも気が抜けない。
 土の上、固まった雪の上では威力が有った。あたしが始めて買った皮製の登山靴が、ナーゲルなのだ。十七の春の事。当時でさえ、売ってはいたがナーゲルは時代遅れだった。おまけに高価で有った。何故貧乏貧相なくせにナーゲルに手を出したかと言うと、ナーゲルを履くと正しい歩き方が身に付くと何かで読んだからで、前にも有りましたね、そんな話。で、正しい歩き方が身に付いたの?聞かないで!
 初めて履いて行ったのが雨の大蔵尾根、絶好のシュチュエーション、赤土の斜面を雨に打たれつつ登り、鋲が赤土に確り食い込む。 一発で惚れ込みました。

店 003

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Iと登った春の槍沢、表面がクラフトした雪面にナーゲルが食い込み、細かい氷が氷面の上を滑り落ち、チリチリと鈴の様な音を立てる。アイゼン無しで十分だった。
 大好きで自慢の靴だったが、保守が大変だ。鋲はどんどん抜ける、底皮も痛む。でも修理出来る店も人も居なくなる。部品も手に入らなくなって行く。底皮は一回張り替え、全面トリコニーという凄まじい物にして、鋲の脱落は防げたが、一段と重くなってしまった。喜んで履いてはいたが内心気づいて来て居た。こりゃあちと辛いな。で、ビブラムに履き替えた。
 世の中がナーゲルを捨てたのは偶然では無い……。大体、ホームで滑って転び掛ける恐怖は、不要では?
 罵って下さい、結局あたしは使い易く、保守の楽な物が良いミーハー野郎です!

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