2009年2月4日水曜日

ただ一人の贅沢な夜 その二

FH000086

 大室山と加入道はセットと書いたが、両ピークの間のアップダウンは意外と大きい。最低鞍部を破風口という。何だか凄く洒落た名前で、高校生の頃から、印象に強く刻まれている。ね、そう思いませんか?破風口って素敵でしょう。
 名前に背かないキレット状、とはちとオーバーだが、鋭い峠で、確かに何時でも風が渡って(偶然かも知れないが)いた記憶が有る。この近辺の秋は、ブナ林の黄葉で、一面黄色くまる感じだ。空気まで黄色く染まる。私には堪らなく素敵な情景だが、紅葉を求める方には余りお薦めしません。
 加入道には昔から避難小屋が有る。八年程前にも泊まった。秋の小雨の日だったので暮れるのは早い。ローソクの灯りを友に、静かな夜を一人過ごすには、そう、何たって酒。何が無くても、酒。
 自慢ではないが私は、山で酒には困らない為の準備は万全を期している。少々食料装備には目をつぶっても酒は確り担ぐ。春山なんぞで幕営地点に着くと、先ずチューハイを出し、雪に埋める。チューハイは一番取り出しやすい所にしまってある。
 フッフッフッフ、この心がけが大切なのだ。酒飲み登山者の本領、此処に有り!ま、目をむいて力む程の事じゃ無いけど……。たまに、何処に埋めたか分からなくなり、大慌てであちこち雪を蹴って探し回る。丸で馬鹿な犬と同じで有る。
 天幕を張り、雪もコヘルに詰めてバーナーにかけ、天幕内の片付け準備万端整えて、それではと、チューハイを掘り出す訳で、勿論ギンギンに冷えている。それを飲むのです。雪山に囲まれて飲むのです。書いていて涎が
垂れそうになる。
 天気が悪ければガスと風の中、或いはミゾレに叩かれていたりするが、ふん、こっちは天幕内だから平気なんだよ!
 飲むと、ぶるるっと来る。この為に雪山に来たのだ、と錯覚する一瞬で有る。あれ?錯覚 ではないかも知れないな。其の為かも知れない……。
 うっかり冬山にビールを持って行った事が有る。何とち狂ったのかね。栓を開けたら泡が僅かに出て凍り付いた。勿体無いので、融かしたが、すっごーく不味くて、一口飲んで捨ててしまった。我ながらお粗末です。 (ただ一人の贅沢な夜 その三へ続く)

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