2009年2月8日日曜日

ただ一人の贅沢な夜 その三

 

FH000099

 話は戻り、ローソクの灯りで酒を飲む。唯々、静寂。最高に贅沢な夜なのだ。勿論寂しくは有るが、その寂しさこそを、楽しむべきなのだ。其の上この贅沢には経費が大して掛からない、という特典が有る。是非お試し下さい。あ、失礼、皆さんやってるに決まっているか。
 加入道から北へ向かう尾根は微かな踏み跡だったが、今は地図に路が有る。その踏み跡の時代。五月の風が爽やかなある日、道志村へ下って行った。麓の農家が見える。何か立っている。近づくにつれ、ノボリと鯉のぼりだと分かった。でも大きい。大体農家が大きいのに、左右に屋根より遥かに高く聳えている。もっと下ってやっと分かった。ノボリは風林火山、詰まり孫子四如の旗だ。
 屋根より高い鯉のぼり、と四如の旗。甲州都留郡の面目此処に有り、流石信玄公の国だ、と偉く感動致した事が有りました。そうです、私は、武田信玄公のファンなのだ。鯉のぼりの歌も大好きです。あ、いらかの波と雲の波、重なる波の、中空にー♪の方です。一度、本気で最後迄歌って下さい。感動する事、疑いなしです。私なんざ歌ってると泣けて来ちまう。
 そう言えば、早稲田の同期会か何かで校歌を歌い、三番の「集まり散じて人は変われど」のフレーズで必ず泣き出す人がいると、何かで読んだが、さも有りなん。わたしの友人にも「長崎の鐘」を歌うと必ず泣くのがいる。人それぞれ、泣ける歌が有ってこそ幸せなのでしょう。
 ちなみに大室山から東に向かう尾根が、相模と甲斐の国境で、大室山から延々三国山迄続いている。諸窪沢ノ頭からは東海道自然歩道だ。諸窪沢ノ頭から東南に行くと、畦ヶ丸へは僅か三十分弱で着く。そう、畦ヶ丸は相甲国境から相模側へ外れているのだ。
 大室から諸窪沢ノ頭へ向かう相甲国境線は、右直ぐ下に道志道が望め、左は唯々山と谷が続くと言う変則的な尾根筋で、細かいアップダウンは煩いが、結構楽しい山道では有るし、余り人と出会わない主稜線なのだ。そうです、此処は丹沢の背骨の一部なのですぞ。
 加入道山の避難小屋に泊まらず、ブナの巨木の下で幕営した事があった(前にも書いたけど違反なので内緒だよ)。ガスの深い夜だった。仲間と一緒だったので、小屋は避けたのだ。一晩中雨が降っている。天幕にぽつぽつと、小降りなのだが雨音が絶えない。明日は回復するかと心配な一夜であった。
 翌朝は曇り。出て見ると天幕の周り、正確にはブナの巨木の周りだけが濡れている。つまり、ガスがブナに付いて水滴となって、あたかも雨のように落下していたのだ。思わず仲間と笑い合った。何だ、俺達だけが雨降りだったのかよ、はははは。横浜の人は幸せだ。丹沢が有る限り水に困る事は無いだろう。
 大室山は西丹沢の盟主で有る。何処からでもどっしりとした姿が分かる。その代わり、どう登っても、長い登りにうんざりさせられる山では有る。もっとも白石峠経由で登れば割と楽ではある。道志側から登ればもっと楽だ。その代わり加入道も登らなくてはならない。良いじゃない、どうせセットの山なのだから。山の感じも甲乙着けがたい味わいが有って、地味な静かな山が好きな人向けです。
 そう言う私には、大室山は今でもその姿を見ると、空に“喝采”が流れる山なのである。(分からない人は、「三度も挑戦した変な沢」を参照して下さい)

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

こんにちは

倅です

kenzaburou さんのコメント...

たまに誰か来たと思えば、倅か。

孤島です……。