2009年10月17日土曜日

好事家は行く その三

FH010032

 

 確かに行けた、殆ど上迄は。処がコブが有って越せない。二十分近く探って、岩の1㎝位のスタンスを見つけた(コブはザレを被った大岩だった)。臍の上の位置だ。思いっきり足を上げ、地下足袋の先を引っ掛けて体を持ち上げ、コブを突破した。思わず、やったー、と叫んでしまった。今思うと一寸と恥ずかしいです。
私「Y、正面にスタンスが有る。足を右に出すんじゃないぞ」
 でも、Yは足を右に出してしまう。そういう構造の場所なのだ。
私「違う、正面に足を上げろ」
Y「う、う……」
 私は内心余裕であった。此処は稜線直下だ。Yが突破出来なければ、尊仏山荘へ走り(走れたとしたらだけど)ザイルは重いからサブザイルを借りれば、一発で引き上げられるのだ。きっと髭の番頭さんは、装備がなってない、とか、良い年して、とか、沢を舐めるな、とか言うだろうが、聞いてる振りをしてれば良いのさ、ふっふっふっふ(番頭さん、読んでないですよね)。
 案ずる事は無かった。Yは見事コブを突破した。今よりも腹が出ていなかったからだろう、今なら絶対無理さ、違うかいYよ?(大体Yが此のブログを読んでないってえのは許し難い!市中引き回しは勘弁するが、山中引き回しの刑!もうされてるって?そう言やあそうだね)。
 其処からは私の読み通り、いくばくも無く登山道に飛び出た。
私「(振り返り)夢泣くな」
 これは、道に出るから嬉し泣きするなよ、という我々の慣用句だ。美しい言葉遣いでしょう?で、Yは登山道に立ったとたん倒れて転げた。
私「どうした!」
Y 「両足がつった、い、いてっ」
 人間の体は素晴らしいものだ。危険が去って足もつる。下痢すら止まると前に書いた。という事は、相当の部分が、精神力でカバーできる訳ですな。私なんざ、その精神力が衰えて来て……。嘆くのは止めよう。
 好事家の餌食(?)のYは気の毒ではあるが、お陰で人間の尊厳を保っていられる部分もあるので(現に本人がそう言ってるので)、良しとしましょう。
 其のYに救われた話。
 笠ヶ岳の避難小屋はお馴染みのカマボコだが、春に三度Yと泊まっていて、二度目の時だが朝日岳アタックはガスの為断念、下りにかかった。雪の白髪門直下は分かりにくい。登る時に降りる事を想定して地形を頭に入れた積もりがバイアスがかかっちまって、さっぱり分からんのだ。
 ザックを下ろし、空身で偵察に出るが、どう足掻いても急斜面になって仕舞い、いたずらにガスの中を右往左往するのみで途方にくれて戻った。
 唯々白いガスの中、不安に待つばかりのYはすっかり凍えて仕舞っている。
 (好事家は行く その四へ続く)

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