2009年10月7日水曜日

好事家は行く その一

FH000018

 

 こうずか、と読みます。約せば(おいおい、日本語だよ。良いの、今は映画の字幕すら読めない人が増えたんだから。え、数少ない読者に失礼だって?全くそうでした!)物好きって事。
 田代沢の話から入ろう。そら来た。聞いた事も無いマイナーで平凡な名前の沢だ。名は体を表す。マスキ嵐沢とか藤嵐沢、地獄棚沢、ザンザ洞、名前だけで険悪さが分かる。
 さて、おっとりと田代沢。竹之本から加入道へ突き上げる沢で、今は沢沿いの登山道も有る小さな沢で、御免なさいね。
 五年程前、Yと詰めた。当時は路なぞない。加入道で幕営するので荷物は大きかった。淡々と沢を行ったが、多分枝沢に入ったのでしょう。(入ったに決まってんだろう!)どんどん沢が狭く、急になる。でも進むしかないのは常の事で、進んだのだ。
 そのうちザレになった。沢が左にカーブすると、一段と傾斜が増し、両手両足で這う事になってしまった。でも一寸と先に草と林が見える。
 もはやヤモリになった私、ザレを抑えつつその真下に着いたが、崩れた地面が迫り出している。分かる人いますよね?(居ないって、無理も無い)頭の上に地面が出ているのだ。雪庇の土バージョンと言えば分かりやすい。
 私の手がニューッと伸びれば、立ち木を掴めるのだが、残念ながら私は化け物ではない(誰だ、異議を唱えるのは!)。足掻いたが、諦めて引き返そうとして振り返り、驚いた。
 ストーンと落ちる狭いザレの斜面なのだ。ぞっとする風景である。夢中で気づかなかったが、一体全体どうやって登って来たのだろう?我ながら不思議である。すぐ下にYが張り付いている。
私「Y、横に避けてくれ、降りるぞ」
 Yは、必死の形相で私を見ているだけ。
私「おい、Yがいちゃ降りれないんだよ」
Y「……」
 困った。Yの横にスペースは有るが、急過ぎて降りれず、かろうじて通過可能であろう場所はYががっちりと塞いでいる。
私「仕方無い、Y、気をつけて下れ」
Y「……」
 Yは動かない(と言うより動けない)。進退窮まったとはこの事。すると枯れ木が根っこを突き出しているのが見えた。これだ!化け物寸前に迄手を伸ばし、枯れ木を引き擦り落とした。 枯れ木は根を下にザーッと滑り落ちる。私はそれに掴まり一緒に滑り落ちる。体一つで落ちるより抵抗が大きいからだ。Yの横を滑り落ちながら叫んだ。
 (好事家は行く その二へ続く)

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