2009年4月29日水曜日

休題 その十

店 018

 

 あたしゃあ音痴だった(家族に言わせれば今でも音痴だそうだ、フン、あたしの昔を知らないからさ、もっと凄かったんだ)。 本文に有る様に音楽部に居て、音痴が何で音楽部に入ったのかと言うと、入学式の時に音楽部が校歌を歌った(山田耕作の曲ですぞ)のに変に感動し、毎日下校する時にコーラスが聞こえる。音楽室が校門の前に有ったのだ。曲は美しく青きドナウ。
 天文部に入る事は決めて居たが、美しく青きドナウの歌声がやけに魅力的だったのだ。で、音楽室に見学に行ったのだが、後から先輩達からは散々からかわれた。
 突然新入生が傘を持って(此の日は朝は雨だった。傘を持ってるのは当然でしょう?)、座って見ていて、何だあいつは思ったそうだ。
 音楽部(コーラス部)の悩みは常に男声が不足して居る事。当然先輩達は傘を持って座って居る不審な男にもオルグを開始する。男なら何でも良いって事。
 大体からして、歌声に魅せられたあたしはオルグに抵抗する謂れは無い。即入部したが、先輩達が呆れると同時に自分で悟った、あたしゃあ音が取れない、詰まり音痴。
 完璧な音痴は百人に一人、1%です。Kは其の1%、極珍しい存在なので大切にしよう。
 あたしはKとは違って完璧な音痴では無く、音が取れないだけで(殆ど音痴?)、それなら努力で補おうじゃないか! ピアニストには迷惑を掛けました。授業の始まる三十分前にあたしに付き合って音楽室でピアノを叩く。「此の音を出して」「あー」「違う、良く聞いて」「あー」「違う!」「あー」「馬鹿!」。
 流石に馬鹿と迄は言わなかったが、きっと思った事でしょう。で、やっとどうにか音が取れる様になりました。感謝してます、ピアニストMさん。
 美しく青きドナウにはお馴染みのSもどういう訳か動員されて参加しており(当時のSは決して歌が上手いとは言えなかった)、寸前音痴の二人ががなりたてるのだから、さぞやコンダクターは閉口しただろう。
 発表会は、地区大会だったか、文化祭だったか、忘れて仕舞った。遠い日の事。
 美しく青きドナウが終わって動員されたSは去り、残った男性一年生は三人だった。不足なので何かと臨時に人に頼み、結局五人となった筈だ。
 あたしゃあ音はある程度取れる様になったものの、センスが皆無で唯大声で怒鳴るしか出来ない(と人は見ていた。本人は微妙に違うつもだ……)ので、困ったちゃんで有る。
 やがて校舎が木造二階建から四階建に変り、音楽室は四階となって、本文の「出会い」に有る丹沢との対面となりました。
 音楽部が無ければ、丹沢との深い付き合いも無かったかも知れない、縁とは不思議なものです。

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