2010年3月14日日曜日

休題 その三十四

01[1]  やがて本文にも出て来るが、父はアルツになった。初めて変だと思ったのは、十年前の家族旅行の時だ。信州へのバスツアーだった。
 夜中、父があたしを起こす。
父「健ちゃん、此処は何処なんだ、どうして此処に居るんだ」
私「え、お父さん旅行に来たんだよ、思い出して、今朝、新宿からバスに乗ったでしょう」
父「そうだったかなあ……」
 倅も目を醒まして、説明に加わる。
倅「お爺ちゃん、此処は夜間瀬温泉だよ」
父「そうだった、ははは、そうだったな」
 処が翌日の夜中も(連泊だった)同じやり取りが有る!ヤバイ、ひょっとすると……。
 其の通り、後は進みました。色々の治療、薬を試したが、アルツを食い止める事は当時は出来なかった(今でもかな)。
父「お父さん(父の父)は元気かな。どうして居るんだろう、暫く会って無いんだよ」
私「あのね、お父さんは幾つ?」
父「九十かな」
私「八十九。じゃあお爺ちゃんは、三十足しら百十九、日本中にそんな歳の人は居ないよ」
父「そうだね、生きて無いんだね。処でお母さんは元気なのかね」
私「同じでしょう、もうとっくに亡くなってんの!」
父「え、知らなかった!本当かい!」
私「本当なの!」
父「……あー、俺は“みなしご”なのか……」
 父は涙をこぼして嘆く。でも、“みなしご”の意味が違う。苛苛しつつも可笑しくなる。爺さんを“みなしご”とは呼ばない。
今になって其の嘆きが分かる。両親が死んだ事が記憶から抜け落ちて居るのだから、聞いたら、凄まじいショックだ。信じられないし、信じたくない。
 其のやり取りを百回近く繰り返したのだから、こっちが苛苛しちまうのは無理からぬ、とあたしは思って居た。
 其のうち始まった。パターンですよ、若し貴方の親が万が一惚けて仕舞って、そんな事を言い出しても、当然だと思うべきなのです。
父「金を盗られた、泥棒が居る!」
私「泥棒なんてうちには入らないよ。何を盗られたってえの?」
父「見ろ、財布に有ったお金が無いんだ!」
 やり取りを書こうとしたが、野暮は止め。結局、一番立場の弱い者に嫌疑が掛かる。詰まり、我が家では倅が末っ子なので、倅が犯人と推定されて仕舞う。
 其の段階近辺の時期、あたしゃあ家に入る前に戸口で様子を伺う。叫び声(大江健三郎か?)が聞こえるかどうか、耳を澄ます。ジブリの耳を澄ませばなら良い。あれは名作だ。
 出張中に観たが、家に帰って「あれは今年一番の映画だ!」と喚いて、妻と子供達も観に行って、全く同感だったのは、目出度い。
 話があっちに行った、では次に続きます。

2 件のコメント:

DOGLOVER AKIKO さんのコメント...

末っ子さん、疑惑を一身に受けて お気の毒でした。私 末っ子だし、遠くにいるので 認知症になった父に、悪者にされているかなー、、、。
でも、ぼけてしまったお爺さんって、ちょっと 滑稽でかわいいです。吉本興業のボケとツッコミって、いう感じで、笑ってやり過ごすのが、正しい看護だと思っています。偉かった人ほど はげしく呆けるので、これからどうなっていくか怖いですが、できるだけ笑って 何が起きても 笑い飛ばしていく気で、います。

kenzaburou さんのコメント...

素晴らしい心掛けです!
あたしゃあやり遂げられなかったので、Doglover さん、踏ん張って下さい!