2009年7月1日水曜日

私が自炊に拘るのは その三

FH010022

 

 悪い事に我々は自炊ではなく、小屋の食事頼みであった。何時順番が回って来るか全く分からない。だってズラーっと並んで食事を待って居るんだから。
 腹はペコペコである。重ねて悪い事に、行動食をSに任せてあった。Sは飲んべえなので、行動食はウイスキーと、酒のつまみみたいな物ばかり取り揃え、しかも干し肉とかサラミとか。私は肉が嫌いなの!ノビロが有ったので、仕方なく、バリバリ食べた。とても胸がやけた。
 夜中に気持ち悪くなり、目を覚ました。鰯の缶詰のように、頭足逆に詰め込まれて寝ていたのだ。昔は乱暴で、それが当たり前だった。自分の顔には誰かの靴下(それも何日も履き続けたやつ)がくっついている訳だ。勿論私の靴下も誰かの顔にくっついているのだから、お互い様である。
 いかん、吐き気がこみ上げて来た。廊下に出ると、其処にも隙間無く人が寝ている。マッチを擦って灯りとし、人を踏まないように進む。う、と戻してしまった。幸いな事に水分摂取が少なかった為か、固形状の反吐で有った。(汚い話、失礼)半分飲み込み、半分口に入れた侭急ぐ。マッチの頭がポロリと落ち「アチッ」と声が上がったがもう構っていられない、次の反吐が来かかっている!人を踏みつけ走る。罵声も怒声も知った事か。じゃあ、反吐を掛けられたいのかよ!
 トイレに来ると此処も人の列。オーマイガッ!エジプト軍に追われ、紅海を前に絶望したモーセの気持が良く分かる。すると、女性便所から一人出て来た。紅海が割れたのだ!
 入ろうとする女性を押しのけ、個室に飛び込んだ。うーん、とてもモーセの行動とは思えない。さぞや、非難や叫び声があっただろうが、私には幸いにも、その後の記憶が無い。だって、切羽詰っていたんだから!
 此の日で完全に体調を崩したのだが、縦走は続く。ラッキーにも、悪天候も続く。私とSが雨の中を歩き出した時、小屋が麓と通信をしている声が聞こえた。
「稜線は暴風雨です。登山者は全員停滞します。あ、待って下さい、二人三俣へ向かいます」
 私達だ。はい、歩きました。飯は食えず、夜は眠れず(何でだろう?)、食わず眠らずで、風に吹かれてそれから二日歩き通して、夜行で帰った。若さの勝利だ。今の私なら絶対死んでいる。従って、死ない為に縦走には出掛けず、小屋で停滞する。どんなに混んでいようとだ。
 それからだ、小屋泊まりなら自炊!お盆には絶対幕営にする!行動食は自分でしっかり管理する!と決めたのだ。とことん懲りましたので……。 (私が自炊に拘るのは その四へ続く)

0 件のコメント: