2009年7月19日日曜日

閑話 その二十五

 

店 033 コッヘルの蓋が雪を載せて燕沢へさーっと消えて行った事は本文で書いたが、其の時の春の山行の話。(の、ばかりで失礼。文章に偉くラフなもんで)
 入山は一の沢から、快晴の常念乗越を目指したのだが朝方迄の新雪が60Cm程も積って居て、斜面がきつくなるにつれ腹上のラッセルが延々と続き、捗らない事夥しい。唯助かったのは流石春の雪で、冬の新雪より固め易かった事だ。粉雪だったら前進不能だっただろう。
 膝で雪を抑えて足場を造り足を置いて踏み固めて、又膝で雪を抑え、汗だくの奮闘は何時果てるとも知れず、そこらじゅう雪崩の跡で結構危ないとは思うのだが気にする余裕も無く、一歩一歩に集中しクタクタになった頃やっと常念小屋が見えた。此れは途轍も無く嬉しかったです。
 天幕を張る余力なぞ全く無く、小屋に入ると暖かい別世界で、受付で素泊まりと言う口も回らず、すろまりれす。宿帳を書く手も震え、字にならない。何処から、と聞かれ、いちのさわれす、と縺れる舌で答えた。其れを大勢の登山者が見て居る。何でだ?
 靴を脱いで上がったら登山者達に囲まれて、一斉に尋問が始まった。
「一の沢からですか?」
「雪崩はどうでした?」
「下れるかな?」
「積雪はどうです?」
 詰まり、一、二日悪天候で足止めを喰らって居た諸君が下る為の情報を求めて居るのだが、あたしゃあ禄に舌も回らない状態なのだ。
「なられのあとはあったれす。雪は60CMくらいれ、のぼれたのれくられるれしう……」
小屋番「ま、お疲れでしょうから、後で聞いて下さい」
 と、救われたが、後で散々聞かれた。
 翌朝も快晴。強風に雪煙が巻き上がって居る。あたしは表銀座の予定を捨て燕を目指す事にした。新雪を掻き分け表銀座を、加藤文太郎ならぬ貧弱な我が身、出来っこ無いに決まって居る。
 小屋の皆さんは続々と一の沢を下って行く。あたしは唯一人、風に吹かれ乍ら燕へ向かう。大天井の小屋からはくっきりとトレースが直登して居て、其れを追う。と、頂上直下で二十人近い行列に追いついた。其れが止まって動かない。
 何だ、とは思うが狭い尾根で追い抜きも出来ず立って居ると、少しずつ進みピークに立って分かった。下りが偉く急なのだ。そろりそろりとアイゼンを利かして降りるしか無い。此の人達は大天井の小屋泊まりだった訳だ。
 振り返って見た大天井は綺麗でしたよ!写真は其の時の物で引き伸ばした奴をスキャンしたのだが、どうも変で、済みません。
 で、燕岳は満員のテント村であたしは端っこで幕営したと言う事なのでした。

6 件のコメント:

DOGLOVER AKIKO さんのコメント...

春の山行はそんなに大変なのですね。雪かきとかラッセルとか夏のやぶこぎなどしたことがないので、、、。夏山の燕岳縦走で常念小屋の魚肉ソーセージ入りのうすーいカレーライスの夕飯と、翌日持たせてもらった 梅干も何も入っていない塩だけのおにぎり、、、 でも美味しかったことだけは、よく憶えています。

kenzaburou さんのコメント...

先ずはお詫び致します。今回の写真はスキャンしたもので、本来ならアップすべきではない愚物なのだけど、他に無いので、恥を曝しました。
お答えしますと、春山(否、全ての山は)天候次第で(ご承知ですよね?)、
天国の様な場合も有るのです。
この時は雪が降り積もった直後だったので、偉く苦労をした訳です。
小屋のカレー、おにぎり、私は経験が舞い(正確に言うと3度しか無いので)から、何ともいうえませんが、美味しかった、のは全く納得出来ます。
AKIKOさんは相当山をやっておいでですね。成城の山岳部かワンゲルだったのでしょう?
話が突然変わって済みません。AKIKOさんのブログを又覗かせて貰いましたが、矢張り女性の感性はあたしが様な雑な人間とは違うですなあ。
でも山好きってとこは同じってえのは、同じ釜の飯を食った仲間って事で(違う?そうかなあ、さもなきゃこんな孤島を覗いてはくれない筈だし)、
大体塩見岳遠望の写真を、南ア銃走路と分かったんだから、お仲間です(嫌だって?気持ちは分かりますが)。

DOGLOVER AKIKO さんのコメント...

こんにちわー!私、KENZABUROUさまと、同い年だけど 学生時代は スポーツでない方の運動が忙しくて、、、山岳部もワンゲル部も知りません。たまたま中大と日大の山男たちと知り合い 彼らの話が格別 おもしろいので自分で「山と渓谷」のガイドブックを勉強して 山のとりこになりました。山の写真を見ると 乾いた空気と風が感じられて いまだ初恋の気持ちがよみがえります。仲間も装備もなかったので、槍ヶ岳穂高、立山剣岳、八ヶ岳くらいしか登ってないのですが山はみんな大好きです。KENZABUROUさまの写真を見て、山男の話を読めるのが すごくうれしいです。

kenzaburou さんのコメント...

そうですか、独学で山歩きとは凄い!
槍穂、立山、八ツ、良いとこばっかりです。(丹沢が無いのが一寸と残念)
山男の話、と言われると照れます。山男はあたしの様な堕落した高所恐怖症ではないからです。
ま、山おやじ、位です。

DOGLOVER AKIKO さんのコメント...

こんにちわー!丹沢は3-4回登っているのですが KENZABUROUさまの日記を読んでも 山の名前が思い出せないのです。小田急線の何とか言う駅で降りて ヤビツ峠の登山道入り口に行くまでの間に 軽く平地で遭難(単なる迷子)したり、確か塔ノ岳を登っているはずですが 帰りが大変で、こわい山だった記憶がかすかに、、、。それにしても鹿島槍から槍ヶ岳縦走って、すごいですね。あんなに離れている山と山が 続いていて縦走できるなんて!!!!です。tadatadaソンケー

kenzaburou さんのコメント...

それは表尾根です。塔ノ岳からは大倉尾根を下るのですが、割とアルバイトが有るものの、変化が有って一番人気のコースです。良い山だったでしょう?
あ、覚えてないんでした……。
そのうちアップしますが、鹿島槍から槍ヶ岳へは失敗しました。う、う、情無い。。。。。。詳しくはそのうちに、です。(もう書きあがっては居るんですが)