2009年7月28日火曜日

カモシカに会いましょう その三

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 叫んだが手遅れだった。Bが落とした石が幾つか私を掠めて落ち、石が石を呼び、ガーっと石雪崩になってしまった。私は、ラク、ラク!(落石を知らせる合図)と叫んだが、全く無意味な行為だった。何せ小さな谷に石雪崩の轟音が響き渡っているのだから、そんな声はかき消されちまう。でも叫ばずにはいられない。人が居ないのは分かっていたが、足が震えた。
 沢のカーブ地点で石雪崩はおさまり、カランカランとの音を最後に静寂になったが、私の耳の中では、暫らく轟音が響いていた。はい、不注意でした、それからは充分気をつけています。(ペコリ)
 この日の宿が丹沢ホームだったのだ。豪華な一泊の翌朝、流れを越えて、三ノ塔へ突き上げる尾根に取り付いた。下部は植林だったが、やがて疎林と藪の、らしい尾根となった。ごそごそと頂上直下の藪から這い出し、驚いて見ているパーティに挨拶もせずに三ノ塔のピークを越え、急いで蓑毛へと下った。さて、今度は春岳沢を登るのだ。
 春岳沢はせっせせっせと登った、ぼやぼやしてると日が暮れる。小さなクラックに登山靴を突っ込んで登ったり、枯滝で私が捨てザイルに飛び付く様に手を伸ばした瞬間スリップ、Bが、あ!と叫んだが私はザイルを確り掴んでいてニヤリと笑って見せたり(見栄張ってんです。本当はドキドキだったので)、詰め上げて、大山山頂に立った時は日暮れが迫っていた。十二月半ばだったので、日暮れが一年で一番早い時期だ。二本の尾根と、二本の沢を仕上げた訳で、私とBはハイタッチをし、笑い合った。町には灯りが点き始めていた。いやー、青春ですなあ。え、その頃でさえ最早青春ではない?そうかなあ……。
 で、一気にバス停に走り降りた。当時はそんな真似ができたのだ(ほら、青春じゃんかさあ)。今、同じルートを同じく二日でやれと言われたら、ひたすら、できませんと謝るしかありません。三日で良いなら、条件に依っては手を打ちましょう。
 大分前に、場合によっては、丹沢ホームがカモシカを見せに連れて行ってくれる、と聞いた。今はどうだか分からないので、興味の有る方は丹沢ホームにお問い合わせ下さい。カモシカは朝、展望の良い場所に立つ習性が有る。さぞや立派な姿であろう。
 実はそうなのだ、まことに風格が有る。天然記念物の名に恥じない。見事立派の一言なのだ。
 昔々正月に池山尾根から空木岳(うつきだけ)を目指した。誰もいない静かな冬山であった。幕営はヨセマギあたりと決めていて、重いザックを背負ってやっと到着したら、絶好の幕営地にカモシカが立っていて、悠然と景色を見ている。気圧されしまって、だらし無い事に幕営を諦めた。貴方でも多分、同じ行動を取るんじゃないかなあ。

2 件のコメント:

DOGLOVER AKIKO さんのコメント...

毎回 写真が素晴らしいですね。表尾根を歩くだけでない山行の大変さ! 岩場を「四輪駆動」で登りつめる様子、、、読んでいてドキドキします。
本当に、冬山の人のいない高台にたたずむカモシカの姿、神々しくて近寄れなかったことでしょう。白いライチョウを初めて見たとき 見惚れて動けなくなりました。山の生き物の美しさは、特別ですね。

kenzaburou さんのコメント...

全く同感です!
雷鳥の親の後を子供が数羽チョコチョコ付いて行く姿なぞ、思わず微笑んでしまいます。
山の動物ではないのですが、日本ではHachiが上映されます。予告編で見たハチの仔犬の頃の可愛らしい事!
シドニーでは上映されるのでしょうか。
私も犬好きなので、見に行くつもりです。