2010年7月10日土曜日

又もや好事家は行く その五

FH000103

 ユサユサ揺れる這松の上を渡り続けるのは思いの外の苦労だ。下手すれば、落っこちる。其処に石楠花が有れば、生き地獄の様な按配となる。石楠花をこいで居ると足元が危ういし、足元を気にすると石楠花に遮られる。
 這松こぎは本来やりたくない。辛いからも有るが、別の意味だ。這松こぎは春山独特の苦行で、夏にやる人も居るが、頗る付きの物好き連中で、岩をやって仕方無く這松こぎになると言う事。私が様なまともな好事家(?)は、春山で、雪を踏んで進んで行くが、岩稜に遮られて仕方無く、巻いて這松帯に飛び込むのだが、当然アイゼンを着けて居る。一々外せば良いのは分かっては居るけど、しょっちゅう着けたり外したりは、意外と出来ない。だって、すっごーく面倒なんだもん。
 で、アイゼンで這松を踏みつけるのが嫌なのだ。あの過酷な高山で必死に生きて居る這松が、1m成長するのに何年掛かるでしょう?
 当たった貴方は偉い!1mに三十年が正解です。私は驚いたので、何と健気な植物よ、と思って居るので、アイゼンで踏むなんて可哀そうで出来ない、と言い乍ら踏んで歩くしか無い。だから、這松こぎはやりたくない。何たって辛いし(くどい?)。
 桧沢は室久保川の支流で、モロクボ沢ノ頭へ詰め上げる小さな沢で有る。最近の地図では、周りの尾根は道になっているが、昔々々は何も無かった。
 初夏の一日、小さなリュックを背に沢に入った。特に悪い所も無く、ガレらしいものも無いうちに詰め上げとなり、ザレと土の急斜面になり、ザラザラと四駆で上がって居ると、稜線直下に達した。頭を反らせて見上げるとすず竹が直ぐ其処に見える。
 前の物好きな奴の章と同じ状況なのだ。稜線迄の僅かな間が垂直の土の壁、最期はせり出して居る。詰まり土の雪庇だ。救いは前章程大きい土の雪庇では無かった事で、何とか突破出来そうに見える。
 で、突破しました。指を揃えて土に差し込み、手掛かりにして又指を差し込み、土登り。最期は思いっきり手を伸ばしてすず竹を束にして握り、稜線に這い上がった時は泥まみれで、人様に見せられた姿では無い。
 爪の中も見事に土。今なら無理な登り方なので、スピードが勝負、差し込んだ指も蹴り込んだ足元も見る見る崩れるのだから、一瞬の間も無く次の動作を要求されるのだ。ぼやぼやしてれば滑り落ちるだけなのだから、崩れるより早くシャカシャカと登るのみ!
 物好きだって?そうです!
 だが、私なんかとことん増しな方だ。厳冬の甲斐駒の岩場のテラスで、ザイルで自己確保し半シェラフで夜を過ごすNや其のご同輩と比べれば、何とまともで可愛い事か。
 凍て付いた雪洞で、訳の分からん物をかじって暮らす諸君と比べれば、遥かにまともな人間だとしか思えないのだ。其れに、私のパーティは死者も出して無い、えっへん。
 と、無意味に威張ってどうしようってんでしょうね。又もや好事家話、失礼しました。

2 件のコメント:

DOGLOVER AKIKO さんのコメント...

またまた素晴らしい芸術写真ですね。こんな写真が撮りたい!!!
笹藪ですか。
むかし山屋さんだけでなく岩屋さんもやる方の話で、岩の取っ掛かりを指の第一関節だけで全体重を支えられる訓練をしているのを聞いて感動しました。けど、岩でなく土のハングオーバーを、崩れるさきから登って越えるなんて、、、KENZABUROUさんんも命知らずだったんですね。

kenzaburou さんのコメント...

命知らずと言う事は無いのです。臆病者ですから。それに高所恐怖症だし……。

本当に仕方無い状況だったので、火事場の馬鹿力其のものでした。