2012年9月4日火曜日

閑話 その八十七




 八十六の源次郎沢の続きです。
 あんまり直登はしたく無い岩で有る。男性の言では、滝の下には幾つか慰霊碑が有ったそうだ。今はガレの下だから分からいが、きっと落ちた人が多いのだろう。
あたしの見る処、左手の尾根に取り付くの一手だ。ガレザレ斜面をトラバースして取り付いて、少し登って見た。うん、何とか行けそうだ。
 行けるだろうから此れで行こう、と言っても男性は何故か躊躇する。沢や岩は慣れて居ても、ガレザレ斜面は苦手だと見て取って、ザイルで確保を申し出た。
 躊躇して当然で有る。丹沢の、脆い岩のザレガレ泥を、散々這い登った経験は、あたしとYは、少なくともトップ集団は無理でも、第三集団に付いて行かれる範囲には、入って居るのだ、エッヘン。
 あ、威張る事では無かった。馬鹿の証明なんだから(涙)。
 ザイルで確保して、男性は尾根に立った。併し、尾根ったって小さな支尾根で、ガレザレ斜面と大差は無いのだ。
男性「私は遅いから先に行ってくれ」
私「じゃあ、気を付けて」
 で、先行した。案の定、結構悪い所が続く。あたしは時々ヤッホーを掛ける。返事が返って来るが、段々遠くなる。彼は元々歩が遅い上に、ガレザレは不慣れだろうから、益々遅れる訳だ。あたしは、お節介にも無事にあそこ(悪場)を越えただろうかと気を揉む。彼も相当のベテランなのだから、余計なお世話なのだ。
 とうとう、ヤッホーの返事が聞き取れなくなった時に、尾根直下に着いた。尾根には行き来する登山者の姿が見える。




 木陰に腰を下ろし、谷間を見下ろし乍らお握りを食べ、写真を撮り、一服点けて時間を潰す。そして最後のヤッホーを掛ける。
 微かに返事が聞こえる。良し、順調に登って居るぞ!!
私「先にー、いきますよー」
男性「(微かに)はーい」
私「気をつけて、さようならー!!」
 谷間に向けて、ヤッホーの気合で「さようなら」を叫んだのは、初めての経験だった。面白い事に、少し寂しかった。
山とは、一期一会です。

2 件のコメント:

DOGLOVER AKIKO さんのコメント...

なるほどなるほど それで一期一会だったんですね。良いお話ですね。ヤッホーに励まされ、その方もガレザレを這いつくばって沢登りに成功されたことでしょう。
それにしても、いくつも慰霊碑のある沢を登ってこられたんですねー!!!(感慨深い溜め息とともに、、)

kenzaburou さんのコメント...

はい、無事に登り切ったと思います。
慰霊碑は多いのですが、沢としては本当の入門編なのです(汗)。