2012年8月9日木曜日

山の報告です その三十



 
 これまた閑話で良いだろうけど、うっかり此処に書いて仕舞った。同行者はY。道志道(国道413)をクネクネと行って、モチハギ沢のオートキャンプ場に車を停め、水遊びを楽しむ人々を横目に、沢に入った。
 そーら来た、聞いた事も無い沢だ。きっと小さな沢だろう。ビンゴ!流域1.8kmの可愛い沢で、ブナノ丸の西方に詰め上げる。
 七月二十八日、当然暑い日で、尚も素敵なのは、風が通らない沢だった!従って一面苔むして居る、万歳!救いは小沢の癖に水量が多い事位だ。
 淡々とした沢歩きが続く。蒸されてびしょびしょだが、顔や腕を洗い乍ら行く、やがて傾斜が増して沢らしくなる。四十度を越える登りが続くが、此の侭収まってくれる筈が無い、と本能は囁く。人の気配は全く無い。ひょっとすると、あたし達が初登り?
 や、来た、僅か5m位の壁だ。足元は四十五度のガレザレで、壁は逆層気味、背には幕営具一式。
 其れでも登ろうと試みて、手掛かりに指を掛けると、ぼろっと崩れた。どうやら岩の振りをして居る砂の様で有る。
 戻って別の枝に入るには、登り過ぎて居る。余りに辛い。横に逃げるのは、周りが切り立って居て、不可能此の上無しで有る。
 残る手は、空身になって這い登るのみ。で、サブザイルを肩に、地下足袋の長所をモロに生かして、つるっとしてない所(詰まりザラっとした所)へ底を押し付け、摩擦の抵抗を利用して、指、掌、肘迄活躍し、小さなギャップへ上がれた。ヤモリんごたある。
 ギャップと言っても、確りした足場では無い。先ず、あたしのザックを引き上げる。ザックは泥塗れになって、上がって来た。
 次が重要だ。体重77kgにザックの重さを加えたYを、上げねばならない。彼は登山靴なので、ヤモリは出来ない。
 悪い足場を踏ん張って、引き上げに掛かる。Yも必死にホールド、スタンスを求めるが、碌なものが無い。ある程度登って、ズリっと滑った。途端にあたしに力が掛かり、腰が浮いた。あぶねえあぶねえ、一緒に落っこちるとこだったぜ。
 何とか堪えられたのは何より。Yの手がギャップの縁に掛かり、呼吸を合わせて引き上げると、見事にYはギャップに立った。
 やったー!ファイト一発だな、と喜び合い、ま、一服つけようと、旨い煙草を吸ったのが大間違いとは、神ならぬ身の、で有ります。(続)

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