2012年4月18日水曜日

体中がつった! その六


 ふざけるな、冗談を言ってる余裕は無いのだ!手足の指が二十本全てつったのだ。私は、声を殺し、ただ悶えていた。声を、何故殺したのだろう?馬鹿ですなあ。どったんばったん苦しんで(実際はどったんばったんなんてしていない、呻くだけ)、やがて、動けるようになって、必死に表に這い出たのです。多分げっそりとやつれていただろう。水のほとりで、同志落伍者がしょんぼりと炊事をしていた。
同志落伍者「どうしました」

私「そこらじゅうつって、痛くて、どうしよ
うもなかったんです」
同志落伍者「はあ」

私「体中つったんです」

同志落伍者「……はあ」

 経験の無い彼には、多分分かって居ない。

私「こんどつったら、助けて下さい、叫びま
すから」
同志落伍者「良いですよ」

 どう助けるか、分かってなかったと思う。
この夜も何度もつったが、初っ端(しょっぱな)のような大発作が無かったのは、幸いでした。二度も有ったら生き地獄だ。
 一晩寝ても、相変わらずの、ばてばておじ
さんです。そう、この山行から、若者ではなくなって中年おじさんになったのだ、えっへん、……()
 中ノ岳には、本当にやっとの思いで着いた
のです。同志落伍者は遥かに元気で、とっとと登って行ったのだ、此の裏切り者……。丹後山へ行く予定(だったのだ)なんざ豚に食われちまえ!真直ぐ下ろう、こうなりゃ最短距離で十字峡へ下ろう。
 下りで、つりまくったのは、初めての経験
でした。普通下りではつらない、膝は笑うけど。下ってはつり、休んで下り始めてはつり、野中へは、ふらふらになって辿り着きました。
 ……えーん、情無い。それからは今日に至
る迄、山に登ると何らかの意味でひどい目大会を開催しています。
 ま、歳だから、そんなもんだと思わなくっ
ちゃね。
 (体中がつった! その七へ続く)

2 件のコメント:

DOGLOVER AKIKO さんのコメント...

危なかったですね。無事に帰られて、良かったです。急激に脱水して、ナトリウムを失ったので全身の筋肉が反応したのですね。小動物を安楽死させるときに、ナトリウムと拮抗して働くカリウム(ポタシウム)の注射をして死なせますが、それと同じ反応が出たわけです。よく生きて帰られました。さすが!!!

kenzaburou さんのコメント...

う、う、そんなにヤバかったんですか。
安楽死のそばでつって居たんですね。
帰れて良かったです。