2009年8月22日土曜日

ふらっと寄り道一ノ倉岳 その三

 

店 016

 夜中にツェルトに顔を叩かれ目覚めた。風でペグが抜けたのだろう。ツェルトは崩壊寸前でたなびいている。その癖やけに明るい。表に出たら、満月、煌々たる月明かりに上越の雪山達が照らし出されている。
 風の音がさぞ高かっただろう。併し全く覚えが無い。覚えているのは、シーン、という音なのだ。本当にシーン、と音がした。(と印象に残っている)
 月光に映える雪を纏った山々は、満月を頭上に戴き、シーンと静まり返っていた。(矛盾が有る、シーンという音を立てていた、が正しい)
 あんな神々しい風景は、他には無いんじゃないか、と今でも思ってしまう。尤もたった一人の雪山の幕営というシュチュエーションも、大きく物を言ってるんでしょう。あと煌々たる満月と強風も。
 ペグを埋めなおしたが、寝る気になれず(だって、ツェルトが青く光っているんだもん)コーヒーを沸かした。ラッキーな事にその時はインスタントではなく、レギュラーのカップ用コーヒー(知ってます?)だったのだ。本当に滅多に無い事だ。
 封を切った瞬間ツェルトの中は、コーヒーの香りで満たされた。私は蕎麦とお茶には拘るが、コーヒーには殆ど拘らない。でも、あの時の香りは、忘れられない。(禁煙の方御免)煙草の煙が、ビビビビビと震えたのは勿論です。
 本当は冗談で、次行こー、って乗りで始めたのだが、題名が悪かった。いっそ、チョモランマとかK2とかにすれば済んだものを。だって行った事が無いので、先を続けられないでしょうが。
 今は、芝倉岳(一寸と下る)にも一ノ倉岳にも避難小屋が有る。芝倉岳のは見ていないが、一ノ倉岳山頂のは、例のカマボコ型だ。
 説明します。コンクリートの土台の上にカマボコ型の鉄製で窓の付いた、立つと頭がつかえる様な避難小屋(ドラム缶?)。あんな珍しい小屋を考え出すのは、豪雪と強風の上越の人々なればこそだろう。笠ヶ岳も小障子も同型なのだ。面白いですよ。
 カマボコ型で一寸と困るのは、木の床が脆弱で、やけに揺れる事。動く時には声をかけ、火器を抑えないと間違いなく倒れてしまう。多少不自由でもでも、風には無闇と強そうだから良しとしよう。
 元馬鹿の私は幸せだった。当時避難小屋が有って誰もいなければ、其処に泊まるに決まっているから、きっとあの、シーン、という音を知る事も無く、人生を終えただろう。それは余りに勿体ない事だ。
 誤解した人、いますか?(いないと思うけど)避難小屋のお陰でどれだけの人が命を救われているかは、良く分かっています。でも、今の感想はあくまで私内部の話ですから、そういう事だと、ご理解下さい。
 冗談が長引いちまった。ふん、結局俺は野暮天だぜ!

2 件のコメント:

DOGLOVER AKIKO さんのコメント...

こんにちわー。シーンという音がする、、、静寂の音 わたしも体験しました。初めて 北アルプス槍ヶ岳の槍の穂にあった小屋で泊まって 夜中ひとり外に出たときに聞きました。あと、地上ですが 竹やぶの中で、一人出口を見失ったとき、確かにシーンという圧倒的な不思議な音を聴きました。でもKENZABUROUさんの 雪山を独り占めして聴かれた山頂での「シーン」とは比べ物にならないでしょうね。満月と雪山山頂の青い光の中で コーヒーとタバコですか、、、夢みたい!!!渋いですねー!!!!うらやましくて よだれが出ます。

kenzaburou さんのコメント...

いえいえ、同じ音ですよ!仰るとおりの静寂の音です。
余り聞いた人は多くない様なので、聞いた我々は幸せ者って事でしょう。