2014年8月8日金曜日

死ぬほど旨かった桃の缶詰 その六





 丹沢山に着いた時は、みやま山荘へ、よろめきつつ入って行くのがやっとだった。
私「(かすれ声)済みません、何か食べる物は有りませんか」
主人「缶詰位しか無いけど、おい、一体どうしたんだ」
私「お腹が減って、歩けないんです」
主人「何でそんな無茶をすんだ、山を舐めたらいけない、いいか……」
 本当に済みません、お説教は聞いていませんでした。私はただただ、買った桃の缶詰(大きいのだ)を武者ぶり食っていた。あんなに美味い缶詰が、この世に有ったのだ! 露も垂らし乍らも飲み干した。あ~幸せ!
 缶詰を食べたら、しゃんとした。凄いカロリーなのだろう。ジュースなんかしょっちゅう飲んでいると、糖尿病Ⅱ型になるのは、しごくもっともだ。
 お礼を言って小屋を出ると、外にいたパーティの一人に声をかけられた。
その人「あのー、お腹のすいた人ですね」
私「……はい」
 何だか、とても情無い。
その人「これを食べて下さい」
 クラッカーをくれた。有難いものだ、そう在りたいと、それからは心がけている。
 缶詰一個の力で、塔からユーシン迄難なく歩けた。巧く行けば、チョコレート一枚で、遭難者が一週間生き延びるのだから、当然なのだろう。
そんな私に言われたくは無いだろうけど、経験者だから言うのです。
 最低限の非常食はリュックの底にしまっておくと良いですよ。そうだなあ、コンデンスミルクとかハイカロリーゼリーとか、コンビーフとか、万が一水が無くても喉を通る物が宜しい。念の為。
 (死ぬほど旨かった桃の缶詰 その七へ続く)

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