2014年8月6日水曜日

閑話 その百三十三




 霧雨の中、大倉尾根を登り始めた処から。傘をさす程では無い。問題は、あたしが完全に二日酔いだった事。Toはあたしに続いて登って居た。新人の定位置で有る。
To「アルコールが凄く匂うよ、こっち迄酔っ払っちゃうよ」
私「へえ、そうかい」
 前日次女が泊まりに来たので、つい酒が進んだのだ。塔へ登るので気が張って居るが、家に居たら起きるのも嫌な状態だろう。
 雨に洗われた緑が、偉く綺麗なのだ。
Y「緑が綺麗だなあ!」
私「ああ、見事だ」
Y「下草が新緑だ、此の時期に生えるんだ」
 色弱のYですら感嘆するのだ。残念乍ら、雨の中でカメラを出す気がせず、写真には撮って無い。冒頭の写真も当日のものだが、其の見事な緑では無い。
 初心者のToには、其れが分からない様だ。緑の美しさに気付くのは、或る程度の年季が必要なのだろう、きっと。
 行程も半ばを過ぎる頃から、Yの遅れが甚だしくなった。オーダー交換でYを二番手、Toをラストに置く。Yの面目は潰れるが、現実を見て対処するのが、あたしの仕事だ。
 結局、喘ぐYを囲む様にして頂上に着いた。勿論、景色なんざ無い。唯々白いガスの中。雨が小止みになったのが嬉しい。
私「本当はぜーんぶ見えるんだ、富士山、あっちは相模湾、あっちは関東平野」
 何も見えない。
私「さ、降りるぞ」
To「え?」
 当然の疑問だ。初心者は頂上に着いた限りは、何らかのイベントが有ると思う。あたしもそうだった。
 初めての春山で雪の北穂に登った時に、登り着いたら即Iが、「さ、降りるぞ」と言った時には「え?」と言った。
 目的は達したのだから、帰る事を考えるのが当たり前なのだ。真っ白なガスの山頂に未練は無い。其処はYも充分かって居る。で、とっとと下山に掛かったのだ。(続)

2 件のコメント:

DOGLOVER AKIKO さんのコメント...

苦しい思いで、痛む体に鞭打って、ようやくたどり着いた頂上で、「さ、下るぞ。」と言われれば、本当に「え?」ですね。すごく気持ちがわかります!!!

kenzaburou さんのコメント...

そうなんですよね。
登ったら下らなければならないので、つい「下るぞ」になっちゃうんです。
下りで時間を食うのが分かってるんで。