2012年10月20日土曜日

山の報告です その三十四





 最後の一時間をヒーヒーと登り切ると、北岳山頂だ。此の頂は五度目だけど、雲一つ無いのは初めてで、こう言う景色だったんだ、と改めて感心する間抜けなあたし。
 頂上には、中年男性二人のパーティが居た。これからどんどん人が現れ、去って行くのだ。普通は此の侭広河原に下って、帰って行く。自慢じゃ無いけどあたしは普通じゃない。折角担ぎ上げたテントをばらして、慌てて帰るなんて勿体無い。だから、もう一泊するのだ。
 従って時間は充分過ぎる程有る。雄大な景色に囲まれて、山頂に一時間半は居ただろう。其の位の贅沢は、許される歳だと思う。
 中には歳なぞ関係無い人も居る。あたしより一寸と先輩が、元気に登って来た。八王子の人だった。
先輩「小屋の奴が広河原からのピストンはきついと言うんだ、歳を見たんだな」
 七十歳だそうだ。
先輩「仙丈に登って次は甲斐駒、夕べは広河原に幕営したんだ」
 三日(或いは四日)で三千座(甲斐駒は34m程不足)を三座だって!!凄い人も居るもんだ。と言うより超人的で、最早普通の範疇には入らない。従ってあたしなんざ、傍にも近づけない。



 若者が登って来る。中年男性が登って来る。何人もやって来るが、皆さん好天にニコニコで有る。何せ360度の大展望。そして、夫々の方向へ下って行く。



 若い外国人のカップルが登って来て、頂で抱擁と接吻を交わした。早速片言で、何処から来たと聞く人が居る。ジャーマニィとの答えに、ドイツだと皆さん(含むあたし)驚く。
 離れた岩の上で煙草を吸って居ると、青年がドイツのカップルに、何やら聞かれて困って居る様だ。あたしが行っても役には立つまいが、顔を突っ込んだ。
私「どうしたの」
青年「バスの時刻らしいんですがね」
 ドイツの男性が、時刻の乗ってるパンフを広げ「アシヤス」と言う。
私「芦安は通るけど、此の時刻で良いの?」
別の青年「良い様です、ほら」
 彼は自分のパンフを示す。
私「アシヤス、タイム、オーケー」
 不思議と、山で異国の人に会う時は、あたしは勿論、外の人も皆英語が駄目。此れは決まり事の様になって居る。
 其のドイツのカップルも下山して行く。あたしは「アウフ ヴィーターゼーン」と声を掛けた。男性は「アウフ ヴィーターゼーン」と微笑んで挨拶を返した。女性はサムアップして、笑顔で何やら言った。勿論あたしには分からない。洒落た言葉の一つも返せず、唯微笑むだけの東洋人になっちまった。
 ドイツ語は、今日は、有り難う、さようならしか知らないのだから、致し方無い。
 下りは草スベリルートだ。周りの人(四人程居た)に挨拶し、下山に掛かった。(続)

2 件のコメント:

DOGLOVER AKIKO さんのコメント...

写真がとっても綺麗に撮れていますね。銃走路も富士も、実物みたいによく撮れていて、山の雰囲気、様子が身近に感じられます。仙丈岳、甲斐駒が岳、北岳と、それぞれが独立した大きな山なのに、それを縦走する人って、すごいですね。ドイツ人カップルと会話するKENZABUROUさんも、微笑ましいです。北岳山頂付近で2泊なんて、本当に贅沢です。今回は帰途に、温泉&お酒は、ありでしたか?

kenzaburou さんのコメント...

写真はF2だったら、と思う事しきりなのですが、其れは言わない約束です。

御池小屋はピークから960m程標高を落としています。だから残念ながら山頂付近では有りません。
でも、山頂は綺麗に見えます。

残念乍ら温泉は無しでした。時間がたっぷり有ったのだから、温泉の一手だったのに、下調べが不足してました。