2012年5月14日月曜日

閑話 その八十一



 あたしが上越の低い山で悪戦苦闘して帰京したら、どんどん遭難のニュースが入って来た。結局此の連休で十人の方が無くなった。
 白馬蓮華岳で六人全滅。涸沢岳で一人、爺ヶ岳で一人、奥穂高で二人で有る。奥穂高の滑落を除いて、後は皆低体温症、昔風に言えば疲労凍死で有る。
 皆さん素人では無く、ベテランの方々の様だが、疲労凍死と読んで我が目を疑った。昭和三十年代、四十年代では無い。平成の御世で有る。装備が全く違う。少々の事では、疲労凍死は出来ない時代だ。
 特に不思議だったのは、白馬のパーティで有る。第一報では、Tシャツの上に夏用の雨具を着て倒れて居る、と言うものだった。夏用の雨具が非難っぽく語られて居たが、あたしも夏用の雨具が春山の装備だ。準冬山装備で有る。完全装備では無い。
 ベテラン達に、装備の手落ちが有る訳が無い。案の定最新情報では、六人のザックには、羽毛服、冬用ズボン、バーナーにテェルト迄入って居たと言う。
 ではどうして、其の宝物を活用せずに、全滅して仕舞ったのだろう?四人は医師だそうじゃないか、本当に謎だ。
 どうやらこうらしい。天気が段々悪化して体温を奪われ続けても、本人達は気付かない。医師だって、気付かない時は気付かない。そして決定的な悪天候、そうね、突然の強風と降雪、詰まり吹雪が襲って来て、温度は一気に氷点下に落ち、あっと言う間に、ザックから物を出す力さえ失った。
 あたしも一気に氷点下の経験は、何度か有る。幸いな事に、其れ迄も悪天候で、確り着込んで居たか、ガンガン照りで汗をかいては居たが、決して低体温では無かった事だ。
 併し、今晴れて居るのが突然曇ってガスが湧いて冷たい風が吹き抜ける。こっちは、さあ来たぞ!と雨具を大慌てで着けると、同時に吹き降りとなり、足元の雪もバリバリと凍って行く。本当に、あっと言う間だ。
 其の推測が、多分当って居るのだろう。ベテランでも、山は容赦してくれない。六人の、いや、十人のご冥福を祈るのみで有ります。

2 件のコメント:

DOGLOVER AKIKO さんのコメント...

なるほど、「夏用雨具が春山装備で準冬山装備」なのですね。わかりやすいです。軽装備を非難して死者に鞭打つ人に腹がたちます。だけど、白馬のパーテイーの山男たちの魂は今頃 稜線で風になって飛びまわって遊んでいますね。

kenzaburou さんのコメント...

だと良いのですが、遊ぶには未だ寒過ぎるのが心配です。