2011年6月14日火曜日

山なんて嫌いだ! その二


 人の病気は、幾ら克明に話を聞いても分からない。全然分からない、と言うより実感出来ない。自分が同じ病を持って初めて分かる。此れを同病相哀れむ、と言うのです。
 冬山の撤収とはそう言う訳で、山すら嫌い
と思わせるだけのパワーが、私にとっては有る(もし冬山に行けばSにも)。大体からして寒い中(氷点下三十度近い)、ギンギンに冷え切ったテントを畳みポールを収めるのだから、あっと言う間に指は凍り始める事になって仕舞うのだ。
 悪天候、ガラガラの登り、うーん、だから
って山を嫌う謂れは無いし、強いて言えば薮かなあ。其れもどちらかと言えば、好んで入った訳なんだが、昨年(平成二十一年)の春山の様に丸一日続くと、流石に山なんか嫌いだ、となる。
 山の報告で掲載済みなので重複して仕舞う
けど、石楠花と雑木と笹の絡み合った所を、こじ開けつつ行く歩みは、遅々として進まず、おまけにどうして進めないんだ、と足掻くと確りと体に蔦が絡んで居たりする。
 蔦の絡まるチャペルなら良い、祈りでも捧
げて下さい。山の蔦は体重を掛けたって切れっこ無い。何歩か下がって外すしか手は無いのだが、此れが面倒極まり無い。こっちは、目を動かすのさえ辛いんだから。
 辛さの余り、「お蔦、俺と別れてくれ」と
思わず呟く(勿論心の中で、口に出す力は無い)。ふっふっふ、此の台詞、余りに古くて分からないでしょうね。
 それで、其の苦しい行為が一日中続く。ね、
きっと貴方でも叫びたくなるでしょう、山なんか嫌いだ!
 Nに聞いた話だが、新雪の胸迄のラッセル
を、其れこそ汗だくになって頑張って、百メートル(二百だっかな)しか進めなかったそうだ。ま、其れよっかは増しだけどね。でもNはそんな時でも、山なんか嫌いだ!とは叫ばない様だ。うーん、流石に本物の登山家だなあ。
 石楠花と雑木と笹の絡み合った所を、こじ
開けて登るのは、一度お試しになれば、山嫌いになれる事請け合いです(除くN)。余程確りした布地でなければ、ズタズタになるのでご注意下さい(え、そんな馬鹿はやらないって?其れは正解です!)
 私が前に勤めて居た会社の顧客だった、金
沢の医療器会社の専務が、突然山に行かんぞと志し、裏山に登った。夏の事だった。そして、どう言う訳か下りを間違えて沢に下りて仕舞った。
 典型的なパターンで有る。路を外れて居る
のに気が付かず、変な踏み跡を下ると、踏み跡も消えて、本来は其処で登り返すべきなのだが、登るのが嫌で何と無く下って沢に出て、滝が有ると其処でニッチもサッチも行かなくなって仕舞う。どれだけの人が同じ状況を辿った事か。
 (山なんて嫌いだ! その三へ続く)

4 件のコメント:

DOGLOVER AKIKO さんのコメント...

あはは、お蔦と別れるのは 早瀬主税でしょう。鏡花も同じ 芸者と暮らす身だったので 自分のことを書いたのだ と解釈していました。
零下30度の撤収も、藪こぎも 雪のラッセルも 蔦も、笹薮も大変ですねー。快晴の夏山しか知らない身には、山が嫌いになる気持ちが じぇんじぇん わかりません。

kenzaburou さんのコメント...

流石です、ご存知でしたか!
ま、御互い古くなったって事ですな。

一つでも経験出来れば、きっと、「山なんか嫌いだー!」と叫ぶと思います。其の経験が無いのを、”幸せ”と言います。
幸せで羨ましいですよ!

悪戯っ子(デラシネ) さんのコメント...

零下20度は経験しました。群馬の友人宅でコタツに入っていたときの外気温が、-20度。ふと見ればお茶の表面が凍ってました。
零下30度はありませんが、友人にロシア横断鉄道に乗った男がいて、零下40度では「目を開けると涙が凍って曇ってしまう」といってました。

kenzaburou さんのコメント...

悪戯っ子さん

外気気温がー20度で良かったですね。
室内気温がー20度だと、人生が変わります。