2023年7月12日水曜日

閑話 その四百十三

 


 遭難を扱うユーチューバーが何人もいて、つい見てしまう。悲劇で終わる事が多いが、無事に生還する話もある。思わず感情移入して、「良かった」なぞと呟いてしまう。

 平成九年十月初旬だから、前の立山遭難と同季節だ。五十五才の男性は高校時代から山岳部、ワンゲル、社会人なっては毎年何回も登山をする文句なしのベテランである。

 上高地から槍、大キレットを通過して奥穂から上高地、との予定を見ても、お主やるなあ、である。唯、その日槍に向かってると雪になった。降雪が激しいので殺生ヒュッテの電気室で寝て(小屋は早じまいしていた)、翌日槍を登り南岳小屋に泊り前途の状況を尋ねる。大キレットは雪が付いて危険と聞き、西尾根を下って槍平小屋に下る事とする。

 良い判断である。この人は無理をしない人だ。そのコースなら六時間もあれば新穂高温泉へ着く。道も確りしている。西尾根は凄く傾斜がキツいのだが、そんな事で驚いていたら穂高には来れない。とか言って二十年近く前に登った時は、あたしゃあくたびれ果ててゾンビみたくなったんだけどねw こんな看板がある程だ。上の写真は南岳小屋。両方共拾い物でスマソ。


 
 当時は携帯がなかったのだろう、この男性は小屋からマメに奥さんに連絡をしている。「明日の夜迄には帰る」と。あたしなんかとはそもそも心掛けが違いますなあ。

 翌日槍平へ向かった。処がですよ、途中から這松帯へ踏み込んでしまったのだ。何故かと問われて「山の魔物に誘われたとしか思えない」と答えている。この話を紹介するユーチューバーも「貴方も山の魔物に誘われます」と断言していたが、絶対に有り得るとあたしも思う。”魔が差す”って奴です。

 這松帯が終わると急斜面のガレ場になる。こりゃ変だ、と思ったら古いロープが張ってあったのでそれを頼りに下る。そのロープがなければ引き返していただろう。何が不運になるか分からないものです。(続)

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