双方驚いたのは言う迄も無い。やあやあ、どうしたんだいと、山頂の交歓会で有る。若者は良いなあ。いや、歳を取っても同じか。
山岳部の諸君と別れ、表尾根へ向かう。スパッツは今の様に一般品ではなかった。だから雪は、ズボズボ踏み抜くキャラバンシューズに入り放題だっただろう。当然アイゼンも一般品ではなかった。為に、滑っては其の侭ソリの様に尻で滑った。仲間と笑い乍らだ。
実に恵まれ、楽しい初雪山だった訳だ。結構我々同期生は、行いが良いのかも知れない。
なんちゃってねェ♪
さてお次だ。初アルプスなんだが、実は初春山でも有るのだ。いっぺんに初が二つ、話が早くて良いや。Iと登った蝶、北穂、槍ヶ岳なのだ。二十一歳の春の事。
零細山岳会も、春のアルプスを目指す事になった。一気にグレードを上げたのはI。彼が大学で山岳部に入り、知識と技術を身に付けた為だ。
勿論、突然雪の穂高に皆を連れ込む様な無茶は、流石のIでもしない。皆が目指すのは蝶ヶ岳だ。春山入門には妥当な線で有る。其の本隊到着四日前に入山し、彼方此方登っておこうと言うのがIの企みだった。
I「大塚、今度の合宿な、早めに行って北穂に登ろう」
私「え、俺に登れるのか」
I「大丈夫だよ。雪上訓練はバッチリやる。槍も行こう」
私「え、えー!」
そして、先発隊の宿命で有るでかいテントを担いで、横尾にベースキャンプを設営した。初日は曇りだった。
I「涸沢迄偵察だ」
私「え」
I「ピッケルと雨具を持つんだ」
涸沢へ行って帰って来ました。こっちは春山とアルプスの新人、Iの言うが侭の哀れな存在なのだ。翌日は霧の様な小雨だった。
I「蝶の稜線で雪上訓練だ」
私「はいよ」(続)
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