2014年7月2日水曜日

休題 その百三十二




 一見ヤクザ(ひょっとして本当にヤクザ?)の、朋友Ynの話は何度もしたが、又しよう。朋友続きってこってす。
 だって、今迄の話は如何にYnが乱暴者かって話ばかりなので、公正さに欠けて居るから。勿論、あたしの朋友なのだから、唯の乱暴者なんかじゃ無いのだ。
 誤解をよんだ。“あたしの朋友だから”って書けば、あたしが偉くなっちまう。でもですよ、あたしの唯一の長所は人を見る目が(少しは)有る事だ。うーん、多分又誤解をよんだみたい。兎に角、Ynは唯の乱暴者では無い。
 彼は特許庁の関連組織に勤務して居た。コンピューターの普及に伴い、過剰人員が生じて、毎年誰かを馘首しなければならなくなった。其れは彼の役割だった。人を切るのが嫌になって、彼は自分を切った。
 気持ちは分かるが、なかなか出来る事では無い。子供達の学費だって有ったのに。其れをやってのけるのが、Ynなのだ。ね、唯の乱暴者じゃあ無いでしょう?
 無職になってから、ヤクザからの誘いも有った様だが堅気を通し、幸いにも職を得て、子供達も結婚し、三人の孫持ちになったのは目出度い!
 で、二十年近くも前の話。
 地下鉄の駅で、落ちた人が電車に巻き込まれたそうだ。Ynは飛び降りて、其の人を引き摺り出そうとしたが、車輪に踏まれて居て出来なかった。其の時にYnの背広には、べべっとりと血が着いた。
 自宅最寄の駅から帰宅途中、交番の前を通ると警官に呼び止められた。「血じゃないですか?」。Ynいわく、商売柄血が分かるんだなあ、と。訳を話し、駅に問い合わせて下さい、と言って解放された。
 普通、鉄道員でも無いのに轢死者(未だ息は有ったのかな)を引き出そうとはしない。でも、Ynは唯見ては居られない男なのだ。
 Ynが唯の乱暴者では無い証拠に、書いて置きました。

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