2014年7月19日土曜日

死ぬほど旨かった桃の缶詰 その三





 迂闊ですなあ。そんなんで、本当に丹沢が好きなのか?迂闊野郎でも、好きなものは好きなんだって事で、はい。
 ユーシン沢と桧洞沢の間の尾根は、昔は黒い波線(つまり廃道)の記載が有った。今は流石の大野君の地図にも無い。
 尾根の取り付きに至る迄に、沢を渡る為にケーブルが張ってあった。昔と一寸と前(約十五年前)、すでに錆びたケーブルであった。否、違う、思い出せば錆びは無かった。イメージでは錆びたケーブルなのだ、でも錆びてはいない。ただ、古びているだけだった。どんな鋼でしょうね、滅茶苦茶古いのに、何で錆びが無いのだろう。私は世の技術者を、本当に尊敬してしまいます。
 そのケーブルに掴まり、弾みをつけて対岸に渡ったのだが、手も二三度は送る程度の距離だった。その時ケーブルのささくれで、手の平を切られた。
 相変わらず粗忽です。何で素手で、古びたケーブルにぶら下がるの?意外と深く傷つけられているのだ、そういう時は。何せ飛び出た太い針金で抉られた訳だから。その傷口を舐め舐め、ボサっぽい廃道を登った。
 血は中々止まらない。で、学んだ。(矢張り迂闊野郎ですなあ)それからは、畑薙の吊り橋も、絶対に軍手をはめて渡ります。え、突然畑薙の吊り橋って何さ?
 自分だけ分かって書き殴るのが、酔った私の欠点です。静岡市の奥地、畑薙ダムから四十分位歩いた所に掛かる、なっがーい吊り橋です。
 何度も渡ったが、渡り切るのに五分は必要で、一度冬に大荷物で渡っていたら、強風に煽られて橋は大きく揺れ、私はワイヤーを掴んで立ち往生した事があったが、偉く怖かった、本当に。
 ユーシンに戻ろう。今は多分、ケーブルも無いだろうと思う。多分支えが朽ちて、ケーブルは何処かの川底に、きっと錆びも無く横たわっているのだろう。
 (死ぬほど旨かった桃の缶詰 その四へ続く)

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