2014年7月21日月曜日

休題 その百三十三




 “世界の黒沢”はアカデミー賞と縁が薄い。ソ連で撮った「デルス・ウザーラ」が唯一の受賞作だ。晩年に“名誉賞”を受賞したが、今更と言う感じだ。
 黒沢明については、此処で何回か書いた。日本でより、海外での評価が(其れも偉い差で)高いとも書いた。
 一作一作に新しい試みが有る。そして其の殆どが、世界初の試みなのだ。これって、凄く無い?? ぶりっ子は止そう。おっさんのぶりっ子は反吐が出る。
 一つ例を挙げるが、「野良犬」で最後に犯人を追う場面が有る。犯人も刑事も半死半生で走る場面だ。其処に通り掛かりの女学生達の歌う「野ばら」が流れる。当時は、緊迫シーンには緊迫音楽だった。黒沢は其の固定観念を破って、見事に成功した。
 緊迫したシーンに流れるのどかな曲。今ではよく使われるテクニックだ。尤も、下手がやるとぶち壊しになるがね。
 ハリウッドの定番、複数のカメラで撮ると言う方式も、黒沢明からの発生だ。但し使い方が違う。黒沢明はロングショットを愛す。涎が出る程愛す(様だ)。
 十数分のロングカットを、一気に撮る。さも無いと感情が乗らないと言うのが、彼の思想だ。其の考えは芝居に通じるので、不明なあたしにも充分理解出来る。
 ハリウッドは、ワンシーンを複数のカメラで撮って、グッドな絵を使う。黒沢は、ハリウッドでは考えられないロングカットを、色々な角度のカメラの映像でつないで、仕上げる。目指す処が全く違う。
 とことんの拘りで有る。あたしと正反対の手法だ。ま、あたしと比べる事自体がナンセンスなのは、承知して居るけどね。
 十数分のロングを芝居し抜く俳優は、必死だろう。一寸とでも監督のお気に召さなければ、「カット!駄目だ!」で終わりだ。スタッフの冷たい目。ヤダヤダ、出たく無い。フイルムだから、どんなに金が掛かって居るかも分かって居るんだよ。
 黒沢君(失礼!)は、撮影が終わると廃人になると言う。中期以降は入院したそうだ。作品に全身全霊を注いだのだ。
 “世界の黒沢”と言われるのは当然なのだ。

2 件のコメント:

DOGLOVER AKIKO さんのコメント...

10分以上のロングカット、芝居に通じる腰の据わったカメラワーク、、、本当に天才ですね。天才の才能が息子に遺伝しないのは、仕方がありませんね。
「羅生門」の最初のカットで、野良犬が人の切り落とされた手をくわえて走り去るシーンをそっくりまねてマカロニウェスタンが別の映画を作っていましたが、最近のSF映画でもそっくりのシーンが出てきて、「みんなまねっこ」と、クロサワの偉大さを改めて感じました。

kenzaburou さんのコメント...

天才とは凄いもんですねえ。
もっとも、天才に指導される役者やスタッフの苦労は、如何ばかりかと思います。