2019年5月4日土曜日

山の報告です その九十一



 割と小さい尾根に雪が付くと、ナイフリッジに近い状態となり、おまけに雪庇も付いて来る。そこはもう突破したのだが、樹林帯に入ると又別の苦労が待っている。
 雪は樹木の周りから解けて空洞を造る。木の周りにドーナツ状に雪が残る事になる。そして左右は切れ落ちている、と言う嫌な場面が頻発するのだ。そこを冷や冷や通るので、我々は「樹林帯冷や冷や」と呼んでいる。
救いは古いトレースが現れる事だ。上の方では新雪に隠され風に削られて分からなかったのです。春にはマイナーなルートと思っていたが、十人近くが歩いた跡が有る。結構好き者は多いってこってす。
 樹林帯冷や冷やの通過も手間取る。何たってYは参っていてバランスが怪しいのだから、ズカズカとは行けない訳だ。下手に踏み抜いた時に立ち直る事ができないので。そして、そうなった。
 あッ、との小さな声とザザッと音、振り返るとYの姿が無い。慌てて戻ると右手方向にYが仰向けでいる。八十度位の灌木の斜面と言うより崖である。急なので雪は落ちてしまっている。その下は雪の斜面で一ヶ所急に落ち込んで、その後は谷底迄の雪斜面。
 帰ってから地図で確認すると比高二百数十メートルだった。一気に落ちて行けば偉く早く下れるのだが、とても無事ではいられない。良くて大怪我、悪くすればお葬式だ。それよりYは何で落ちないで、尾根から1mの所に止まっていられるんだろう?
 と疑問を持ったのは後の事、其の時は夢中でザックを降ろし、足元を固めて手を伸ばした。とは言っても無闇と引っ張ると、折角止まっている状態を壊して落下させかねない。
私「Y、俯せになれるか!」
Y「やって見る」
 Yはどうにか向きを変えられた。
私「蹴込んで足元を固めろ!」  (続)

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