2019年3月3日日曜日

休題 その二百四十七



 高校音楽部の同期生Nhは二年前の五月に奥さんを亡くした。その年の九月に彼の属する成蹊大学グリークラブOB会の演奏があった。二年に一度の演奏会だそうだ。あたしも、他十人程の音楽部仲間も聞きに行った。
 NhはOB会の打ち上げに出ず、我々と合流してファミレスで一杯やった。何と無く気持ちは分かる。演奏会後の打ち上げは芝居の打ち上げと同じく、明るく陽気で活気と活力の塊みたいなもんだから、彼の気分にはそぐわなかったのだろう。奥さんを亡くして未だ四ヶ月なのだから。
 演奏会のアンコールの最後は「遥かな友に」だった。男性コーラスの定番と言って良い曲だ。たまに混声で歌われる事もあるらしい。
 NHは歌い乍ら泣けて泣けてしかたなかったそうだ。その話を聞くあたしも泣けて来た。「遥かな友に」を知らない人もいるだろうから、一番の詩を書く。

  静かな夜更けに いつもいつも
  思い出すのは お前のこと
  おやすみ 安らかに 辿れ夢路
  おやすみ やさしく 今宵もまた

 これでは泣いてしまって当たり前だ。

 つい此の間、音楽部OBが十一人集まって秋葉原のカラオケ屋で飲んだり歌ったりした。勿論カラオケなんざ切って、コーラスをしたのだ。音は鍵盤の付いた吹く楽器で取る。
 NHも来た。もうじき奥さんが亡くなって丸二年になる。当初より随分落ち着いた。時間が癒すと言うが、それ以外に癒される方法が無い事なのだから。
 男は妻に先立たれたら辛い。唯々辛い。NHは「思い出すと後悔ばかりだ」と言う。その辛さから逃れるには、妻より先に死ぬ、の一手なのです。

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