2017年4月30日日曜日

閑話 その二百二十七




 Yは用意周到な男なのに軽アイゼンを持って来なかったと言う。四月なのでいらないと思った、とのたもう。冷たい雨が降れば、山は雪だとは思い至らなかったらしい。
 丹沢でも四月の雪は珍しい事ではない。麓は種々の花盛りでもだ。現に雪景色だし、雪を踏んで登っているのだからね。
 四日前の雪より湿っぽいのが救いで、滑りが少ない。これならアイゼン無しでも大丈夫だろう。それにYのダブルストックが物を言う筈だ。
 吉沢平で小休止してから大階段を登る。相変わらず半分雪に埋まっている。馬鹿尾根に出る前に降る雨は雪に変わっていた。気温も相当低い。大汗かきのYが汗をかいてない!
 景色が無いのは残念だが、雪が降ってるんじゃ当然である。汗をかかないので宜しい。余り滑らないのも宜しい。
 頂上は流石に人影が少ない。土曜とは言えこんな天気でも登る人間がいる事が驚きだ。寒いだけなので、早々に下るとする。
 ポツポツと若者と擦れ違う。七十代半ばと思われる女性が登って来た。悪天候なのに偉いものだ。足取りもしっかりしている。下手すると我々の方が怪しいもんだ。
 天神尾根の下りに掛かる。どんどん下るので勝負が早くて良い。木の根で滑ってYが一度転んだだけで、無事に下り終えた。其処からテント場へは僅かな距離だ。
 水を補給してからテントへ入る。塔から降りて一泊、例のグータラ山行だ。皆さん羨ましがる事疑い無しなのだ。やれば良いのに、すっごーく簡単な事なんだからさあ。
 先ずは乾杯、恒例である。クー、旨い!なぞと騒ぐのも恒例だ。こんな恒例なら誰でも大歓迎でしょうが。此処迄降りて来ると雪は雨に戻っている。雨音を聞き乍らのグータラキャンプ、翌日は里湯に浸かって帰るのみ。贅沢ってえのはこういうもんだと思います。

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