2015年3月16日月曜日

休題 その百四十三




 退院しても風呂には入れない。シャワーを浴びて傷口を洗い、抗生物質の軟膏を摺りこんでガーゼを当てるのだ。
 寒い最中に此れは辛い。あー、風呂に浸かりたい、温泉に入りたい、と切実に思った。シャワーなんざクソ喰らえだ!! 他国人はよくまあこんなもんで満足してるなあ。
 でも、傷口は塞がらずにガーゼは膿だれけとなるのでは、致し方無い。本当はとっくに塞がったのだろうが、ショック症状でバイタル低下、家族迄呼ばれる騒ぎになったのだから、長引いたのも無理は無い。
 一時は血中酸素濃度が測定不能に迄落ちて、医者も右往左往して居たのだ。マスクからは酸素が吹き付けて、唇がボロボロになったと言うのに。
 それが三月初旬の通院の時に、入浴の許可がおりたのだ。尤も、病院に行く前日に海が止まったんだけど、ラッキーなタイミングだ。
私「風呂は何時頃入れますか」
医師「もう良いですよ」
私「え!」
 あっけなく夢が叶った。ほ、本当けえ、風呂に入っても良いのけえ?。
 嘘の筈は無い。そうとなりゃあ家の小さい湯船に入るなんざあ御免蒙る。日帰り温泉のでかいお風呂に入るんだ!
 妻は反対する。大勢の人が入るのだから細菌が居るかも知れない、と。其れは家の風呂だって同じこった。
 あたしは手足は細くなり、まとめて収めた腸がポコンと飛び出し、腹にははっきりと縫い目、地獄の餓鬼のフランケンシュタイン版と言った姿だ。でも、其れがどうした!
 幸いな事に、車で三十分弱に日帰り温泉が有る。東京独特の茶色い温泉だ。すっ飛んで行きました。ゆったりと湯に浸かるのが、こんなに感動だったとは。
 時間が薬。じっくり治しましょう。

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