2024年3月18日月曜日

休題 その五百十三


  越後長岡藩の家老河井継之助を描いた司馬遼太郎の小説「峠」は、地味系だが面白い作品だ。河井継之助は戊辰の役の戦乱で、主人牧野氏が徳川家を裏切られず朝廷に反抗する心もなく苦悩するので、小藩にしては強力な武力を整え、いずれにも組しない「中立」を目指すが、結局戦火で長岡の町は焼け落ちる。他人にない発想を強力に効率的に実行した結果が敗戦、朝敵の汚名で、自らも敵弾に依る傷が元で死ぬ。

 ネットフリックスに松竹映画としてあったので見た。河井継之助は役所広司、その母親は香川京子、牧野氏は仲代達矢。香川京子は久し振りだ、良い老け女優になりましたなあ。仲代達矢はボソボソ話す殿様だが、その心が実に良く伝わって来る。役所広司は一寸とイメージが違ったかな、でも上手いです。

 さて映画の出来だが、残念の一言であった。二時間に収めるには元々無理があるのだが、それにしても端折り方が酷い。粗筋を映画にしたんじゃなかろうが。欲しい場面は全く描かれていない。脚色家の腕が悪すぎる。酷評に過ぎる? そんなこたああるまい、司馬遼太郎が生きていればきっと怒りますぞ。

 七万四千石(実質十四万石)の家中を纏めて武装中立方針を貫く迄の苦労、最新式小銃を購入する為の蓄財の苦労、それだけで二時間は必要な話の連続なのだ。

 夢破れ官軍と戦争になるが、戦闘経緯が雑なので、どうなったのか分からなく描いている。大体、戦っているのは足軽ばかりではないか、武士達も小銃を自費で購入して戦ったのだ。従って画面に迫力なんざない!

 「峠」以前に「風雲児(?)」だと思ったが短編で長岡藩を書いているが、天才は場合に依っては災害をもたらす、と司馬氏は述べている。その通りである。

 散々ド素人が作品をけなしたが、面白い原作をやけに詰まらなくするのに腹が立つのです。

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