2021年10月19日火曜日

山の報告です その百十二

   ガレを渡って小屋の横を通って下り始め、三十分一寸とで道端で休む。小刻みに休まないともたないのだ。若者の男性二人女性一人のパーティが下って来た。「あ、邪魔で済みません」「いえ、全然大丈夫です」と言葉を交わして、彼等は足取り軽く下って行く。

 次の休みはガレ沢沿いの平だ。六人程の六十代以上のパーティとさっきの三人が休んでいた。あたしも休んで出発しようとしたら、高齢パーティが先に下り出した。先頭の女性が「紀美子平迄行かれましたか」と聞くので「前穂ピストンしました」と答える。「凄いですねえ」と驚かれてしまった。彼等は前穂へは行かなかったんだ。

 その後そのパーティには追いつかなかった。直ぐに抜かれるだろうと思った三人も追いついて来なかった。大休止を取った様だ。

 こんなに歩いたっけ、とうんざりする頃に林道に出る。後は上高地へは一息だ。未だ三時半、充分に東京へ帰れる時間だが、例に依って小梨平で幕営をする。慌てて帰ってどうしますか。折角テントを担いで来たんだ、上高地の夜を楽しまなくっちゃさあ。

 風呂に入ろうと思ったら三十分刻みだと言う。え、ゆっくり入れねえのけえ、じゃあやめたやめた。これは残念だった。西穂の帰りにゆっくり入れたのは、十月末で登山者が少なかったからだろう。

 上高地の夜を楽しむったって風呂位しかないんだけどね。前日我慢して飲んだ缶チューハイが飲めない。人工甘味料が耐えられないのだ。仕方なく半分砂地に流した。テントの友はウイスキーだけになっちまったぜ。普段なら我慢できただろうが、相当疲れていたんだな。だから耐えられなかった。情けなくはありますが、限界近く迄頑張った証拠です。

 翌日は一番バスで帰った。今生最後の穂高だが別れは思った程寂しくはない。もう無理、って納得したからなんです。(この章終わり)

0 件のコメント: