2019年6月6日木曜日

柄でも無い事 その七十一



 Sセンターの思い出を書いたついでにもう一つ。若い頃?いや、心が若い頃の詰まらない思い出ですよ、失礼するです。
 若者としておく。若者は多かったがそのうちの一人で、三十歳がそう遠くない二十代男性、バイトで暮してシナリオを学んでいる、典型的な生徒の一人である。
 どちらかと言うとSF指向で、見掛けがシャープな若者だったが、作品も変わった視点を持っていて、あたしは高評価だった。
 処が四十代の曲者男性(二人いた)と、三十代の曲者女性(三人いた。一人は前回登場の女性)と先生には受けが悪かった。このクラスでは余りSFは受けない。グジャグジャした葛藤が好まれる傾向があったのだ。先生の影響が大きかったかも知れない。
 若者は鎌倉に住んでいた。センターは青山だから、飲み会が終わって帰り着くと午前様だ。良くぞ遠くから通ったものである。
 作品を発表すると、遠慮なく問題点を指摘される。誰でもそうなのだが、この若者にとっては、俺の本義は其処じゃないって感が強かっただろう。
 その気持ち、非常に良くわかる。あたしだってしょっちゅうそう思ってた。分かってねえなあ、ってね。時代劇の三人絡みで、それぞれの思惑で台詞を交わす場面を、先生は全く分からない、と仰る。三人劇をやらせりゃこちとら名人(?)でい! 分かんないとは笑わせてくれるぜ。そうは言わずに苦笑しただけだったけどね。
 或る日若者は作品発表の時、凄い早口で平坦に読み上げた。お、レジスタンスに走ったか、と必死に聞き取った。皆さんは聞き取れなかったようで、聞き取って感想を述べたのはあたし一人だった。
 その日を最後に若者はクラスに現れなくなった。隣のクラスに移籍したのだ。その気持ち、非常に良く分かります。未だライターを目指しているのだろうか。

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